それからしばらくして、アレクサンドルがふらりとやって来た。
仔猫はどうした?というのが挨拶ぬきの第一声で、ああ、みんなもらい先に片づいたよ、
と答えると、もらい手の身許は確かなんだろうね、というのがアレクサンドルの返事で、
自分の身許もはっきりしないくせに良く言うよ、お前は、とぼくが言うのに対し軽蔑的に鼻を鳴らし、
おれの言ってる身許とというのは、中国残留孤児が確かめたがってる類いの身許じゃないのよ、
わかってるだろ?猫に対してちゃんと責任取る人物かって、ことよ、とお説教口調になり、
ぼくは益々苛立った。
きみ、アレクサンドルくんよ、じゃあ、あんたやツネコさんは、猫に対してちゃんと責任取る人物なのかよ。
それとこれとは話がまるで違うじゃないか。
だって、ツネコはタマをぼくにたくしたんだし、ぼくはぼくで、夏之さんみたいなしっかりした人物にタマをたくしたんだぜ。
タマを捨てたり保健所で殺させたりしたかよ、おれが。
だから、見なよ、ほらあ、ねえ、タマはこんなに充ち足りて幸福そうじゃありませんか。
★タマや/金井美恵子★
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