「それでね、その葬式の帰りに考えたの。ついこの前まで一緒にテーブルでご飯を食べてたのに、
どうして二度と会えなくなっちゃったのかって。どうしてみんな死んじゃったのかって。
なんにも悪いことしてないのに。普通の家族だったのに。
なんの前触れもなくみんな死んじゃった。
たまたまあたしが友達の家に泊まりに行ってるときに、お父さんたち三人で外食して、
その帰りに事故にあって。死んじゃって。
そんなのおかしいと思ったの。そんなの変だと思ったの」
目を落としたまま、淡々と言葉を紡ぐ。
「それで考えたの。この世の中に、そんなわけのわからない哀しいことが起こるのは、
どこかに悪者がいるからだって。どこかで悪者が悪いことしてるに違いないって思ったの。
その悪者は、たぶん悪者らしく黒い服を着ていて、切っても突いても死ななくて、
アメリカのホラー映画みたく、チェーンソーでも持ってるんだと思ったの。
そしたら、本当にいたの。その悪者が。チェーンソー男が、あたしの目の前に現れたの」
◇
能登は、あいつは、戦っていたらしい。ヤツと、ばっちり、戦っていたらしい。
能登が戦っていた敵は、だけどおそらく、チェーンソー男ほどはわかりやすくない、
目には見えない、だいぶイヤらしい敵であったことだろう。
しかしいま、オレの目の前にはチェーンソー男がいる。
どこまでも易しくわかりやすい、諸悪の根源、チェーンソー男がいる。
それこそがオレの希望なのだ。
★ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ/滝本竜彦★
■滝本さんは1978年生まれ。 こんなに同世代(1歳ちがい)の人の書いた小説を読んだのは初めてで。
『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』というタイトルについてのインタビューも好きです。
|