ふしぎなことに、打楽器をたたくときにだけ、用務員さんの不自然な動作はぴたりとやんだ。
それも、おじいちゃんに教わったとおり打つと、からだがこれまでになくなめらかに動くんだそうだ。
じいさんの音楽が、自分のからだをしゃんとさせる、
「ほんとうのおんがくって、そういうなにかなのさ」
そう用務員さんはいっていた。
◇
「わたしがいいたいのは、次のふたつです。なんの仕事であれ、募集広告を鵜呑みのすることなかれ」
生徒たちを見わたし、「そして、たったひとことがその後三十年を変えることがある。
そのひとことを、いつか聞き逃さないようにしてください。これだけです。諸君、卒業おめでとう」
★麦ふみクーツェ(第一章)/いしいしんじ★
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