主人公はものすごくからだの大きな少年で、あだなが「ねこ」。おじいさんは「吹奏楽の王様」、父親 は「水夫のこどもたち相手の数学教師」をしている。母親はいません。そのほかこの長い小説に は、目のみえない巨体のボクサーとか、この世をスクラップ記事でつくりなおそうとする用務員さん だとか、ほんとうにたくさんの「へんてこなひとびと」がでてきます。彼らは音楽、あるいは「音」で、 縦横につながりあったなかまなのです。でたらめなこの世の騒音のなかで、ときおりかすかになり ひびく鐘の音に耳をすませ、その音のおかげでなんとか今日明日生きていける。ぼくにも音は必要 だし、読者のみなさんにだってきっとそうでしょう。この作品「麦ふみクーツェ」がみなさんのうちで、 たとえささやかでもここちよい響きを奏でますよう、ぼくはこころからねがっています。
★麦ふみクーツェ/いしいしんじ★
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