カッコ悪い人が、カッコイイ人に向って何か言う時、相当な覚悟がいるぞって。 永尾カルビにしたら、大きなお世話と思うが、カッコ悪さが目に余ったからだ。 小林よしのりさんはもっと大きな相手と闘う人だ。 教えてあげるのはボクで十分だ。
事実、小林さんに"ちんかす野郎"とまで書かれた永尾カルビは、 「オレ、ちんかす野郎だから」と、持ちネタを増やしていた。 おい! ちんかすって知ってるだろ? ちんぽの垢だぜ。 あんたを育てた親にどう説明するよ? なあ。 そんな事、言われるために生れてきたんじゃないだろ。
あの頃、確かに小林よしのりさんは叩き易かったかも知れん。 勇気をもって、自分の考えを言う人っていつの時代もそういう目に会ってきた。 ジョン・レノンだって、そうだ。
ボクは永尾カルビの他の文章は知らない。 ひょっとして読むと、自分のやるべき事を見つけている奴かも知れない。 もし、そうなら誰が見てもカッコ悪い事はやめようぜ。 本番前、会って喋ってみると根っからバカではない事ぐらい分かった。 バカなペンネームではあるが、それなりに自分の看板出しでやってきた奴だろう。 ファンもいるから本も出してこれたんだろ? それが何だ! "ちんかす野郎"と呼ばれてうれしいか? それは批判したかった小林よしのりという人を認め過ぎてるって思われちゃうぜ。 何だか愛に飢えて、振り向いてくれない親にやつ当りしてるみたいだ。
「今夜の打ち上げどうする?」 狭い楽屋で、 「私、打ち合せ2本とインタビューも入ってんのよね」 横森理香っていうの、ちゃっきり娘の向って左みたいな顔した女が言った。 「聞いてねぇーよ!!」 ダウンタウン浜田でなくても、誰かツッ込めよ、その額に。 「オレも、この後、打ち合せでー」 おい! 永尾カルビ、あんたもボケてどーする。 結局、みんな行きたいんだろ? 大好きな業界人パーティだもんね。
「後ろからオレの乳、触れよ」 ボクは女装して、バストは90以上は軽くあったので永尾カルビに指示した。 本番でメガネを飛ばしてやろうと思ってたからだ。 元・大阪人と聞いていたので、 メガネを飛ばされた時、どうするか? 見たかったのだ。 本番中、辰巳琢郎マスターのカウンターで、 背後からボクの乳を触る永尾カルビのメガネを取り上げた。 そして、勢いをつけて長く伸びるカウンターにメガネを滑らせた。 一瞬、沈黙があったが、 「ほら! "メガネ、メガネ"って捜しに行くんだよ!」 と、やすし・きよし全盛期のヤッさんギャグを命令した。 永尾カルビは一生懸命、手を交差させメガネを取りに行った。 アクションは今イチだったが、怒らずやったところは関西人としてエライ! 「小林よしのり先生に謝りなさい!」 本番中、言ったが、単に奴にネタを振っただけの結果になってしまった。 その後、アシスタントの巨乳女を勢い余って泣かせてしまったが、 単なるとばっちりだと思って勘弁して欲しい。
永尾カルビとその後、少し喋ったが、 いじめられっ子特有のヘッチャラさは持ち合せていた。 カッコ良くなれるはずだぜ。
雑誌社、特に最近の若い編集者はなってないが、 そんな奴らの手先になるのはやめようぜ。 「小林よしのりさんについてどう思います?」 そんな原稿依頼があったら要注意だ。 それは今なら悪口を書いてくれ、と頼まれたも同然だ。 奴らは雑誌社の裏に隠れて、 「ヒヒヒ、話題になりゃ何でもいいんだよ。 どーせ責任は書いた奴が被るんだからよー」 サラリーマンはいつだってズルイ。 書き手と編集者って何だか友達みたいにしてるけど、 奴らの中にこそ本当の敵がいる事を知るべきだ。
つづく
★誰だってカッコ良くなれるはず(2)/みうらじゅん★
|