遠距離M女ですが、何か?
井原りり



 声でイク

電話のおかげで逢えなくても、声を聞くことはできる。


声は不思議。

魅力ある声の持ち主は、容姿以上の美徳を有する、と思う。


ムスメの要望でJazzのスタンダードの入ったアルバムを探していた。
貧相なCD屋で、売れ筋しかなかった。

見つけたのはケイコ・リーの『Voices』。


ケイコ・リーはまだ駆け出しのころ、うちの近所のJazz屋に来て歌ったのを聴いたことがある。

ふうん……って感じだが、美人なだけの阿川泰子より歌唱力はあるよな。綾戸智絵みたいに騒がしくないよな、っていう薄い印象だった。


スタンダードだから聞く側にはもう、それぞれの歌に固定したイメージがある。

それをいちいち裏切ってくれるところが気持ちよかった。


「Fly me to the Moon」はミョーに重い。
まさか、これがあの……”ふらーぃみーとぅざむー?”って感じ。

「What a wonderful world」にいたっては、なんてったってサッチモのそれにまさるものはない、と思っている脳天にどパンチ!!


サッチモも泣けるが、ケイコさん、あなたにも泣かされました。

女の深い声もいい。

深い声の男はもっといい。



以下、あたしの勝手な訳、ね。



* * * * * *



葉っぱは緑  バラの花は紅い

空は青いし 雲ってな白い

虹ってなんてキレイな色なんだ

みんな手を振っていっちまう


赤んぼが泣いてる

やつらもそのうちでかくなって

オレも知らないようなことたくさん覚えてくんだな


「はじめまして」って握手する

愛してるぜ みんな


あああ 生きてるってな いいな



* * * * * *



なんか文体はその昔かぶれた黒人の詩人ラングストン・ヒューズそのまんまやんけ、ですが。


映画『12 モンキーズ』が好きなんだけど、過去と近未来とを行き来するブルース・ウィリスがカーラジオから流れるサッチモのこれを耳にして「ああ、やっぱり20世紀の音楽はいいぜ」って云う。

この台詞があるから、この映画が好き。



2002年10月10日(木)
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