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■ 悪い夢
彼女は「犬」である〜8〜
暗い部屋のすみで、わたしはしくしく泣いている。
雨音が聞こえる。
しゅるしゅるしゅるっと、縄がこすれる音がする。
「泣いてないで、ちゃんと見て……」
いはらの声がする。
陶酔したような、呆けたような、とにかく尋常じゃない様子の女がいはらと一緒にいる。
縛られて、嬲られて、イっちゃってる……「K」がそこにいる。
悪い夢だ。
ずっとこんな妄想がアタマから離れない。 もうアタマぐるぐるで、何にも考えたくない。
でも返事を出さなきゃいけない。
めったなことは書けない。転送されちゃうからな。
「K」はいったい誰とコトに及ぼうというのか? いはらとか? それとも誰か別のお相手をまた探すのか?
「K」がいはらに、コロっと参っちゃう日がいつか来るとしても、ちいとばかし早すぎやしないか? このわたしだって3ケ月かかったのに……。
いっそ直接きいてみようか? いはらにはゼッタイ転送しないでねって念を押して「誰とプレイしたいの? いはら? それとも別の人?」って。
この答え次第で返信の内容は逆になるからな。 そこが一番知りたいのに、そんなこと聞いたら飼い主の威厳はまるつぶれだ。
聞けない。 聞いちゃいけないよ、そんなこと。 転送しないでね、なんて言ったっていつかばれる。
ばれて困るようなら最初からするな、だ。
もしも相手がいはらじゃないっていうのなら、もう何だってやっちゃって、どんなに破廉恥な行為だろうが、どんなに淫らな痴態だろうが、どんどんさらしちゃってもうイクところまで、落ちるところまでとことんヤリ尽くしてくれてかまわないって煽って……。
でも、いいのか? 奥さん、それでほんとにいいの? 無責任ながら少し不安にもなったりして……。
問題はいはらが対象だった場合だ。
いはらから誘うようなことはないから、いはらが「K」の誘いに応じるかどうかも気になるのだが、それは次の段階だからさておくとして、相手がいはらならば、だ。
1 ゼッタイに許さない
2 内緒でやって
3 あたしもまぜて
あああ、情けない。 この3つしか思い浮かばない。 ばっかみたいでくだらない。 でも何度自分に問い掛けても、こんな答えしか出てこない。
悪い夢が、ぐるぐるアタマをかけめぐる。
もしも、いはらから「返事かけたか?」って聞かれた時、この3つを見せたらもう減点もいいところだな。
なんで減点されるとわかっているような答えしか思い浮かばないんだ?
あまりにも通俗だ。
今、思うと、もっと冷静に朝のメールの内容を分析すれば、なんとなく答えは見えていたようにも思う。
あの時はダメダ〜メで、ぐるぐるだった。
あたし抜きで二人が会うようなことになったら、「K」の自宅に電話して夫に密告しかねないくらいに、あたしはフツーの女の感情でしか、モノを考えられなくなっていた。
チェックアウト後、夫は出勤し、わたしは子どもたちとイルカを見に行った。
夕刻。 「で、どうよ」 あ、いはらだ。
どうよって……。
2002年10月03日(木)
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