「 あなたがあなたで居てくれて、よかった 」
昔の恋人
Thank you for being you.
My old girl friend
元来、私はさほど リサイクル に熱心なタイプではない。
したがって、昔の恋人を訪ねて行くことなど、まず滅多にない。
インターネットで公開されている日記の中には 「 匿名 」 という特徴を活かして、かなり好き勝手に嘘八百を並べているものもあるようだ。
ただし、それでも数年に亘って毎日のように更新されていると、徐々に作者の性格やライフスタイルが伝わり、嘘をつけばバレる場面も出てくる。
カッコつけて正義漢ぶっても、「 あんた、そんな人じゃないじゃん 」 とか、「 あんたに、そんなこと出来るわけないじゃん 」 てなものである。
私も匿名で日記を書いているわけだが、それとはまた違う理由で、もし嘘を書けばすぐにバレてしまう運命が待ち受けている。
それは、「 実際に会った人 」 や 「 とても親しい人物 」 がこの日記をご覧になっているためで、ほとんど匿名性が意味を成していないからだ。
5年前に別れた恋人が自分と同じようにWEB日記を書いていて、お互いに時々なんとなく気になるのか、相手の日記を覗いている。
たぶん、本当に嫌になって別れたのなら、そんな不健康な行為に及ぶこともないと思うのだが、この関係だけは、ちょっと複雑な事情が絡んでいる。
当時の私は、勤め人を辞めて独立する大きな転機にあり、仕事と私生活をバランスよく並行して維持したり、誰かを気遣う配慮を著しく欠いていた。
些細なことで腹を立てたり、相手のリズムを待てなかったり、逆に、自分のリズムに追いつけない相手を許せなかったり、いま思えば最悪だった。
そこで出した結論が 「 別れ 」 だったのだが、当時はそれが最善手であると疑わなかったし、付き合い続けていても、上手くはいかなかっただろう。
すぐに二人とも別の恋人ができて、お互いに結婚まで発展しそうだったが、新しい彼女は大病を患い、自分の前から姿を消してしまった。
そんなときに、心配してメールをくれた彼女もまた、相手の嘘や不誠実さに傷つき、やがては破局して落ち込む結果となった。
別れた後でも、お互いの誕生日にメールを交わしていた二人は、どこかに気持ちを残していたのかもしれないが、実際に会いにいくことはなかった。
本音を言うと私の方は、会いにいきたくなったことがあったけれど、恋人を 「 リサイクル 」 するのもどうかと思って、ずっと躊躇していた。
事情がどうあろうと、別れたのには理由があったはずだし、落ち込んでいる彼女を再び自分が傷つけるなんてことは、なんとしても避けたかった。
二度と会うことはないと思っていたが、最近、また彼女の身に辛い出来事が重なったことを相手の日記で知り、思わず連絡をとってしまった。
さほど緊急の用件も無かったのだが、出張の機会をつくって彼女の住む街に出かけ、5年ぶりに再会することとなった。
彼女を待つ間、不思議な気持ちだが 「 老けてブサイクになっていればいいのに 」 と願い、これで気持ちの整理をつけようとする自分がいた。
やがて現れた彼女は、期待に反して相変わらず美しく、二人でお茶を飲みながら話していると、タイムマシンで当時に戻ったような気がした。
私に対する相手の印象も 「 5年の歳月をまったく感じさせない 」 というものだったが、それは私が相変わらずバカなせいかもしれない。
二人とも年の割には子供っぽいが、安易に 「 また付き合う? 」 なんて話をしなかった点が、少しは成長した証かもしれないと思った。
慎重というより、お互いに 「 時間が欲しい 」 という気持ちと、再会して自分の気持ちがどう変化するのか、確かめたい気持ちが一致したのだろう。
いつも日記の冒頭には著名人による名言を引用させていただいているが、今夜だけは、再会したときに彼女が呟いた一言を掲載した。
なんとなく嬉しかったが、それに対し 「 いまも君が好きだよ 」 と言う代わりに、「 いまも俺が好きでしょ 」 なんて生意気な台詞を返してしまった。
帰りの車中で彼女にメールを送信している最中、彼女からの受信が届き、いま送信したメールと同じタイトルだったことに、運命を感じる夜だった。
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