2005年03月01日(火) |
ブキハラ ( ブキミハラスメント ) 被害に注意 |
「 男のいない女なんて、自転車のない魚のようなものだ 」
グロリア・スタイネム ( アメリカの女性解放運動家 )
A woman without a man is like a fish without a bicycle.
GLORIA STEINEM
一見しただけでは、ちょっと意味不明な文章に思われる。
魚にとっての自転車、つまり 「 不要なもの 」 のたとえなのである。
大阪には、「 ヤクザ 」 と 「 お笑い 」 と 「 商人 ( あきんど ) 」 しか居ないのではないかと、かなり本気で思っている人がいる。
実際には、他に 「 ひったくり 」 とか 「 変質者 」 とか、あるいはごく少数の 「 良識ある人々 」 も住んでいるのだが、あまり知られていないようだ。
本当の大阪は、魑魅魍魎が蠢く 「 ミステリーゾーン 」 でも、奇奇怪怪なる 「 サイキックワンダーランド 」 でもなく、ごく普通の地方都市だ。
誰とはなく誇張して噂が広まっているだけで、他の町とそう変わりはない。
一度、足を踏み入れると抜け出せない蟻地獄のような町だとか、黒魔術や伝染病が大流行しているわけでもないので、ご安心いただきたい。
そんな風に、大阪を毛嫌いしたり、不可知の恐怖から、訪問を避けてしまう御仁に対し、大阪の 「 長所 」 もご紹介しておきたい。
まず第一に、「 くいだおれ 」 というぐらいで、食べ物が美味しい。
正確に言うと、新鮮な魚は 「 北海道 」 や 「 九州 」 に勝てないし、カニは 「 北陸 」 に、米は 「 東北 」 に負けている。
食べ物が美味しいというよりは、「 さほど新鮮な材料などを必要とはしない加工品 」 が美味しいのであって、調理技術の水準が高いのである。
特に、麺類、お好み焼き、たこ焼きなど、「 粉もの 」 と呼ばれる一群に関しては、他の地方に比べると 「 あたりはずれ 」 が少ないようである。
以前、東京から出張してきた 「 お調子者の同僚 」 が、蕎麦屋で関西弁を真似ながら 「 けつねうろん一丁 」 と注文したが、まったく通じなかった。
東京の 「 きつねうどん 」 は、大阪でも 「 きつねうどん 」 であり、大阪の人が 「 けつねうろん 」 と呼んでいるというのは、まったくの デマ である。
お品書きの 「 きつねうどん 」 を指差しながら 「 けつねうろん 」 などと発音すると、「 脳溢血の後遺症で、言語障害になった人 」 だと思われる。
通常でも関東に比べると 「 薄味 」 なのに、さらに塩分を控えられる。
美味しいうどんが食べたいのなら、正しく 「 きつねうどん 」 と注文したほうがよいだろう。
こうやって文字で伝える場合は問題ないが、同じ言葉でも関東と近畿圏では、アクセントの位置が違うケースも多い。
関西を代表する人気タレントの 浜村 淳 さんが、「 さて、みなさん 」 という前口上から話し始めるのは有名だが、この例をみるとわかりやすい。
関東で、「 さて 」 の 「 て 」、「 みなさん 」 の 「 な 」 に強いアクセントを置くところを、関西では 「 さて 」 の 「 さ 」 と 「 みなさん 」 の 「 み 」 に置く。
たまに、関西を舞台にした映画やドラマなどで、関西弁に不慣れな俳優さんが陥る失敗は、この微妙な 「 アクセントの違い 」 によるところが多い。
演じている方は平気でも、大阪人にとっては、実に気持ち悪かったりする。
いつも昼食は、オフィス街の蕎麦屋とか、定食屋で済ますのだが、たまには 「 お洒落なランチでも 」 と思って、近所のイタリア料理店に入った。
店内は空いていたので、誰も居ない一枚板のカウンターの端に腰掛けると、ほどなく、スレンダーな若い女性が入ってきて、反対側の端に座った。
その直後、今度は中年の男性が入ってきて、女性の隣に座る。
親しげに彼が声を掛けると、当初、女性は驚きつつも笑顔で挨拶したので、お二人は知り合いなのだということがわかった。
見た感じで、女性は20代前半、男性は50代半ばといったところか。
持参した本を読みながら、食事が運ばれてくるのを待っていると、お二人の話し声が聞こえてくるのだが、男性の声が異常に甲高い。
聞き耳を立てるつもりはなかったが、耳障りな高い声で、しかも大きいために、嫌でも断片的な内容が伝わってくる。
どうやら、二人は会社の同僚で、職場では顔を合わす機会も多いのだが、こうやって外で一緒に食事をするのは、今回が初めてらしい。
また、「 一緒に食事 」 とは言っても、申し合わせて来たわけではなく、女性が一人で店に入るのを目撃した男性が、急いで追いかけてきたのである。
会社の景気がどうだとか、トップの人事がどうしたとか、部外者には興味も無い内容の内輪話が続き、甲高い大阪弁が店内に響いている。
やがて、少し静かになったかと思うと、男性の声がさらに 「 不快 」 な印象に変わっていることに気付いた。
話題も、二人のプライベートなことや、趣味の話に変わっている。
何が不快なんだろうと、よく考えてみると、いつの間にやら男性の口調が 「 東京弁 」 に変わっていて、どうにもアクセントがぎこちない。
女性の側は大阪弁のままで、最初はにこやかに対応していたのだが、私と同様に違和感を感じたのか、「 うっとうしそう 」 な返事に変わっている。
しかも男性は、貧弱な容貌をしわくちゃのスーツに包んだまま、くねくねと体を歪めながら、カウンターに頬づえをついて、彼女の顔を凝視している。
どうみても、男性は 「 口説く 」 体勢に入っていて、しきりに彼女の異性関係や、オフの過ごし方に関する質問を浴びせている。
ごく稀にいるが、「 口説くときは、東京弁になる 」 というタイプのようだ。
お世辞にも 「 男前 」 と呼べるタイプではないし、親子ほど年も離れているし、エセ東京弁は気持ち悪いしで、女性の方はげんなりした様子だ。
女性は適当に相槌を打つ程度で、ほとんど話し掛けはしなかったのだが、少しの沈黙を見計らって、上手い具合に別の話題を切り出した。
男性は一人暮らしの様子なので、「 夕食とかはどうしているんですか? 」 と尋ねたのだが、途端に男性は声のトーンを変え、ニタッと笑って応えた。
「 気になるゥ? ぐっ、ぐふふふふ 」
ここで女性が、手にしたパスタのフォークで男性の眼球を貫いたとしても、私が裁判官なら 「 正当防衛につき無罪 」 と宣告したことだろう。
たしかに手は触れていないし、セクハラというにも不十分だが、あまりにも不気味すぎるし、貴重な休憩時間が彼のせいで 「 修羅場 」 と化している。
不幸中の幸いに、男性が注文したパスタの出来上がりが遅く、それが来た頃に彼女は、食べかけのパスタを残して足早に立ち去ることができた。
彼女は 「 お 」 に力強いアクセントを込めた 「 おつかれッ! 」 という悲鳴にも似た声を残し、バッグとコートを鷲掴みにして店を後にした。
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