「 この人にはこれだけしか能力がないなどと決め付けていては、
能力は引き出せません 」
井深 大 ( ソニー 創設者 )
If you label a person as having only so much ability, you will never bring out his true potential.
MASARU IBUKA
1978年、世界最小の 「 ヘッドフォンステレオ 」 が ソニー から生まれた。
私自身、最初に試聴したときの驚きを、今でもよく覚えている。
今では、「 カセットテープ 」 自体が陳腐化してしまい、もっと小型で、もっと音質に優れ、録音内容が劣化しない代替品に、主役の座を奪われている。
戦時中、官憲の仕事だけに関わっていた井深氏は、仕様書通りのモノだけを作らされ、技術的な進歩を感じず、面白くないと思っていたそうだ。
戦後は、一般消費者向け製品を作るという懸案に取り掛かり、盛田昭夫氏らを含む8人で 「 東京通信研究所 」 を設立し、ソニー の礎を築いた。
彼が最初に目をつけた製品は 「 テープレコーダー 」 で、それは GHQ で初めて見て、音を聞き、何もないところから始めた仕事だった。
そうして完成した 「 国産初のテープレコーダー 」 は、重さが45kgもあったが、次々と改良を重ねて、日本中、そして世界中に行き渡っていった。
冒頭の言葉が示す通り、彼らの足跡を辿ると 「 技術者への深い信頼 」 が無ければ、今日の繁栄も成し得なかったことが明白である。
従業員の能力を見極め、適正に合った仕事を期待する場面も必要だが、人間の持つ 「 無限の創造性 」 を大切にすることも、ときには重要となる。
研究、開発にあたる技術職だけでなく、総合職の分野にあっても、独創的なアイディアで、業界、職能の分野を切り拓いてきた先駆者がいる。
いわゆる 「 仕事を任せる 」 というのはそういうことで、それができる経営者のいる会社と、そうでない会社の違いが、企業の明暗を分けたりもする。
業務を細かく分解し、パッチワーク的に 「 これだけやれれば結構 」 という仕事のみを与え、各人の潜在能力を引き出せない企業には限界がある。
人材派遣会社最大手 「 スタッフサービス 」 が、サービス残業をさせた全国の社員と退職者約4,000人に対し、総額約30億円の支払いを開始した。
大阪労働局が 「 労働基準法違反 ( 割増賃金不払いなど ) 」 の疑いありとして、同社を家宅捜索し、書類送検に及んだことが発端となっている。
関係者によると、就業規則で労働時間が午前九時から午後五時半と定められているにも関わらず、実質的には13時間を越えていたそうである。
土曜、日曜の休日出勤も恒常化し、全国的に長時間労働とサービス残業が行われており、あまりにも酷い実情から、今回の告発に至った模様だ。
過去二年間にさかのぼって未払いを調べた結果、その総額は約30億円にのぼり、人材事業を 「 看板 」 にする資格、倫理観に非難が集中している。
人材を扱うビジネスには、主に正社員を企業へ斡旋する 「 人材紹介業 」 と、パートタイマーを派遣する 「 人材派遣業 」 などがある。
私自身、「 人材紹介業 」 を生業としているのだが、一応、免許、資格としては 「 人材派遣業 」 も行うことは可能になっている。
しかしながら、「 人材派遣制度が国を滅ぼす 」 といった揺るぎない信念を持っているので、今後も、手を染めることはないと思う。
もちろん、労働形態の多様化や、人によっては 「 短時間だけ働きたい 」 という立場も尊重しなければならないが、それならアルバイトで十分である。
組織的にパートタイマーを斡旋し、その 「 上前をはねる 」 ような職質には、どうしても納得できないし、少なくとも私の気質には合わない。
各企業が省力化を推進し、その結果として正社員数を減らし、雇用負担の少ない派遣社員、パートタイマーへの 「 切り替え 」 が進んでいる。
最近の若い子は 「 フリーター 」 が多いと言うが、社会が正社員の雇用を減らし、パート、アルバイトの雇用を増やしたのだから当然の話だ。
働くことに変わりはなく、パート、アルバイトに対する偏見を向けるわけではないが、正社員に比べると、長期的に安定した収入が保証されていない。
将来的な収入が保証されていないのだから、結婚をしようとか、自分たちの子供をつくろうとする意気込みも、当然のことながら低下する傾向にある。
つまり、「 人材派遣 」 という制度には、労働意欲の低下、少子化の増進といった、マイナスの 「 社会的な害悪 」 が副作用として潜んでいるのだ。
それぞれの企業は、人件費のコストダウンがはかれ、一時的に収益が改善されたと喜んでも、社会への 「 マイナスの経済効果 」 は極めて大きい。
社会経済が低迷すると、当然、その 「 しっぺ返し 」 は企業にもはね返ってくるわけで、「 モノが売れない 」 とか、困った問題に発展する。
企業の業績が伸びて、経済は回復しているという報告がなされているわりに、国民の 「 不景気感 」 が改善されていないのも、この実態による。
いくら企業の内容を改善しても、国民の賃金水準を下げたり、福利厚生を低下させていたのでは、消費が伸びるはずもなく、内需は拡大しない。
そういった傾向を推し進めんとする 「 人材派遣業 」 は、まさしく社会悪の象徴であり、下手をするとこの制度が 「 国を滅ぼす 」 危険も大きい。
いまこそ社会は、一企業の私利私欲にばかり囚われず、将来へ向けての社会が発展することを願うならば、「 派遣制度 」 を亡くすべきである。
短時間労働の機会は、企業が労働者を 「 直接、アルバイト雇用する 」 ことで問題ないし、フルタイムの雇用は、原則 「 正社員 」 で扱われるべきだ。
派遣社員として働く知人の中には、能力の高い人もいるが、正社員に比べると、どうしても労働意欲や、組織への参加意識に欠ける部分が否めない。
いくら本人が 「 その気 」 になっても、責任の重大な仕事や、企業の将来に関わる要件を任される機会が少なく、その人の真価が発揮されにくい。
人はロボットと違い、「 クリエイティブな活動 」 の出来ることが最大の長所であり、それを阻害する派遣制度には、断固、反対するものである。
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