「 年齢の話をするなんて、退屈の極みです 」
ルース・ゴードン ( 女優 )
Discussing how old you are is the temple of boredom.
RUTH GORDON
あと三日で、私も 「 45歳 」 の誕生日を迎える。
いつの間に、そんなに年をとってしまったのか、まったく記憶に無い。
年長者が若者に対して 「 俺達の若い頃は 」 から始まる口上を語るのは、誰が最初なのか定かでないが、古くからの慣わしで、今後も続くだろう。
それが別に 「 悪い 」 とも 「 良い 」 とも思わないし、気にする必要もない。
熱く語りかけ、真摯に受け止めても良いし、語る方が 「 教訓 」 と信じ込み、聴く方は 「 自慢話 」 だと評価しても、さほど害のあることではない。
大抵の場合、年長者の方が立場的に優位なので、こちらは過ぎ去りし日の情景に想いを巡らせ、気持ちよく話していることが多い。
難しい顔をして、時勢を嘆きつつも、目の前の若造との 「 世代間ギャップ 」 を愉しんだり、自分の過去を都合よく 「 改ざん 」 したりする余裕がある。
聴いている側は不利な力関係にあり、それを強制される場面も多い。
ときには、物分りが良さそうな顔をして 「 参考になればと思って 」 だとか、「 嫌なら聴かなくてもいいんだけど 」 など、前置きをつける語り手もいる。
実際には、「 参考になりませんし、忙しいので聴きたくありません 」 と冷たく断れないケースが大半なので、この前置きにはあまり意味がない。
どっちみち聴かされるのなら、「 そこに座れ、俺の話を黙って聴け 」 ぐらいの強引さで居直られるほうが、よっぽどマシだったりする。
反論すると 「 経験が足らん 」 と決め付けられ、同意すると 「 お前みたいな青二才に、何がわかるのだ 」 と逆ギレされたりするので、対応は難しい。
私は 「 仕事帰りに サラリーマン が立ち寄る居酒屋 」 みたいな場所が好きではなく、滅多に足を運ばないのだが、そういう場所が好きな人もいる。
それで、仕方なく一緒に行ったりすると、店のアチコチで 「 俺の若い頃は 」 の イントロ から、上司らしき人間が部下に訓示を垂れる姿に遭遇する。
酒がすすむにつれ、たまに 「 飲んどるかぁッ! 」 と大声を発してみたり、「 飲め、飲め、食え、食えッ! 」 と、無意味に勢いをつけたりしている。
酒なんて、自分のペースで飲むから旨いのであり、いくら 「 タダ酒 」 だったとしても、説教されたり、愚痴られたり、いきなり飲めといわれても旨くない。
こういう人の話を聴いて、過去に 「 ためになった 」 と感じた記憶もないし、なるべく付き合わないのだが、どことなく憎めなく、慣れてくると面白い。
そんな経験を積んで、自分だけは 「 そんな中年になりたくない 」 と決意し、年齢を重ねていった人も多いだろう。
私もその一人で、「 部下には部下のプライベートもある 」 と知っているし、仕事が終わってまで付き合うのも、付き合わせるのも控えている。
それでも、たまに残業で遅くなったり、悩み事があるような様子に気づくと、「 軽く付き合え 」 という場面も皆無ではない。
できるだけ、仕事の話は避けるようにしているが、やっぱり 「 友達同士 」 ではないので、おのずから共通の興味がある 「 仕事 」 に話題が向く。
ここで 「 説教 」 したり、過去の成功事例を語っては 「 俺の若い頃は 」 の世界に浸ってしまうので、話し方には気をつかっているつもりだ。
そういう時には、なるべく 「 部下に喋らせる 」 と、上手くいくことが多い。
仕事中は、命令系統の関係もあって、ゆっくりと部下の意見を聴いたりする余裕に乏しく、一方的に指示したり、仕事を教えたりする場面が多くなる。
ちょっとぐらい間違っていたり、勘違いしていると感じても、飲みにいったときぐらいは、茶々を入れずに部下の気持ちを吐露させるのも良いだろう。
話すことで優越感に浸ったり、あるいは仕事のストレスが解消されることも多く、相手の本音を探ったり、意外な一面に気づくことだってある。
いま思うと、「 俺の若い頃は 」 を話していた上司は、自分の話を逆らわずに聴いてくれる部下と飲んで、ストレスを紛らわせていたのかもしれない。
一通り部下の話を聴いて、どうしても否定したいことや、反論がある場合には、その場で 「 処理 」 したほうが良い。
翌日まで引きずって、職場で 「 昨夜の居酒屋の話だけど 」 なんて切り出すのは、あまり具合のよい話とはいえない。
あるいは、その場で議論が決着しなかったなら、すっぱりとその話は忘れ、「 なかったこと 」 にしてしまったほうが良いだろう。
先日、30代前半の男女十数名と、お洒落な居酒屋に出かけてきた。
あとで参加者の一人と、その夜の思い出話をすると、たしかに 「 自慢話 」 は語らなかったが、しきりに 「 飲んどるかあッ! 」 とは叫んでいたらしい。
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