Tonight 今夜の気分
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2005年01月29日(土) 自分だけが 「 特別な仕事をしている 」 という勘違い



「 あなたの自我を、自分の地位に近づけてはいけない。

  地位が下がることで、自我もだめになってしまうから。 」

                   コリン・パウエル ( アメリカの国務長官 )

Avoid having your ego so close to your position that when your position falls, your ego goes with it.

                               COLIN POWELL



どうにも 「 エゴ [ ego ] 」 という言葉には、悪い印象がつきまとう。

日本語にすると 「 自我 」 であり、それ自体が悪い意味ではない。


1937年生まれの パウエル氏 は、なかなかの 「 苦労人 」 である。

ジャマイカ移民の家庭に生まれ、今よりも 「 生い立ちがモノをいう 」 時代に猛烈な努力をし、レーガン政権では国家安全保障会議議長になった。

89年、ブッシュ政権で黒人初の統合参謀本部議長に就任し、91年勃発の湾岸戦争では、多国籍軍において事実上の最高司令官を務めた。

2001年、二代目ブッシュの政権下で国務長官に就任。

最近、同職を辞した ( 政権内での孤立が原因といわれている ) が、黒人初の大統領も夢ではないと語られるほど、米国では人気の高い人物だ。


冒頭に挙げた短文にも、そんな 「 苦労人 」 の人柄が偲ばれる。

誰にでも 「 自我 」 というものはあるが、それを 「 自分の地位 」 に結びつけて考える傾向が強い人も、たまにはいるようだ。

もし自分が、今とはまるで違う地位にいたとしても、同じ考えを持つか。

そのような疑問を抱かずに、「 自分は特別な人間である 」 かのような傲慢さで、他人の価値観など気にせずに、物事を処理しようとする人もいる。

大衆は、そういった 「 庶民感覚に乏しい 」 人物に反感を持ちやすく、彼らが自分たちの 「 利益代表 」 であることを、快くは支持しない。


海老沢氏が NHK の会長職を辞した翌日、「 顧問 」 に就任した。

この ニュース を聞いて、「 ナメとんのか 」 と激怒した国民も多かったはずだし、NHK 職員でつくる日本放送労働組合からも、反対の声が上がった。

反響の大きさに驚いた NHK、及び海老沢氏ら3人の顧問は、就任を撤回し、記者会見を開いた橋本新会長が、その旨を報告した。

しかしながら問題は、橋本氏が海老沢氏を顧問に任命したことについて、「 判断としては間違っていない 」 と強調している点にある。

これは言い換えれば、「 私は正しい判断で海老沢氏を顧問に任命したが、判断力のない連中が騒ぐので、顧問就任はとりやめる 」 と同じ弁である。


この騒動について、ジャーナリストや識者らは 「 危機感がない 」 といった内容の意見を報じているが、そんな 「 難しい話 」 が事の原因ではない。

実際のところは、もっと単純な部分にあると思う。

彼らの中に、自分たちは非常に 「 特別な仕事 」 をしている人間という自負があり、大衆の心理や評価などは、はなから気に留めていないのである。

大衆を欺こうとか騙そうという悪意はなく、すべて 「 それが視聴者のため 」 という 「 間違った信念 」 のもとに暴走し、軌道を外れてしまうのだ。

地位に固執した自我から生まれる信念は、なにが 「 危機 」 なのかを理解することもできず、したがって 「 危機感 」 など存在しようがないのである。


アーサー・ヘイリーの小説 『 大空港 』 の中で、空港長を務める主人公と、傲慢な性格を持つパイロットの義兄が、随所で対立するくだりがある。

パイロットは空港長を 「 ペンギンのように、地上に這いつくばった存在 」 と揶揄し、飛行機を飛ばすことができるのは自分たちの力だと豪語する。

実際には、地上で勤務する整備士や、管制官、航空会社の係員、その他大勢の職員による活躍がなければ、航空機というものは機能しない。

それを忘れ、自分だけが 「 特別な仕事 」 をしているのだという思い上がりを持つ人間は、他人に対する配慮や、感謝する心が欠落している。

これぞ、「 自我を地位に近づける 」 典型的な悪い例である。


全員がそうだとは言わないが、日本の 「 銀行 」 には “ そういう人物 ” が多く、権威主義で、他人を値踏みするようなタイプが目に付く。

だから、とことん悪くなるまで 「 自分たちの問題点 」 に気づかず、最悪の状態になってから ジタバタ する羽目に陥ってしまった。

NHK会長 と同じく、周囲はとっくに気がついていたのに、「 自分たちは特別な地位にあり、特別な仕事をする、特別な人間 」 という妄想があった。

それが 「 自我 」 という呪縛に発展すると、世間の 「 一般常識 」 さえ迎合できない厄介者になり、総スカンを食う存在に陥りやすい。

もちろん、銀行以外の企業でも 「 その手の勘違い 」 をしている人はあり、盛時には困らなくても、落ちぶれると 「 生きる術さえ失う 」 危険がある。


新しい NHK会長 は、就任時の挨拶において 「 おごらず、たかぶらず 」 を座右の銘として挙げたという。

本人に 「 驕り、高ぶっている 」 という自覚が無いのだから、これを 「 嘘 」 だと糾弾したところで、反省を促すことは難しいだろう。

それよりも、冒頭に挙げた パウエル氏 の名言を心に留めてほしい。

会見では、海老沢氏が 「 院政 」 をひく影響について、「 私に影響を与えるものは何もない。私の判断で経営をやっていけばいい 」 とも述べたそうだ。

国民から 「 受信料 」 を徴収しているのだから、「 私の判断 」 ではなくて、「 納付者の判断 」 が重要だということに、早く気づくと良いのだが。






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