「 チップをもらったウェイトレスは、こぼさない 」
作者不詳
Waitresses who are tipped don't spill.
ANONYMOUS
感じの良い 「 サービス 」 には、食事や宿泊の質を高める効果がある。
そこで、日本にも 「 チップ制 」 を導入すべきだと、私は思っている。
日本のホテルやレストランの多くは 「 チップ 」 が要らない代わりに、食事や宿泊の代金以外に 「 サービス料 」 が加算される仕組みになっている。
私は、この制度に矛盾を感じたり、納得のいかない面が多いのだ。
たしかに、いちいち 「 チップ 」 を気にして、ポケットの小銭を探したり、渡すのも手間ではあるが、「 サービスの質 」 というものには個人差がある。
良いサービスを受ければ、それ相応の対価を与えたいと思うし、不愉快な扱いを受けたりすると、一円たりとも渡したくはない。
それを、「 サービス料 」 という名目で一律に加算されるのは腑に落ちない。
ましてや、ホテルなどでは 「 特別なサービスを受けた記憶がない 」 のに、堂々と 「 サービス料 」 を請求するところも多い。
予約をしたホテルのフロントに行き、名前を告げてチェックインの手続きを済ませ、代金と引き換えに鍵を受け取り、自分で荷物を運び部屋に入る。
食事の際には鍵を持ったまま外出し、適当な時間に部屋へ戻る。
疲れたら狭苦しいユニットバスに浸かり、朝になればシャワーを浴び、髭を剃って身支度を整え、また自分で荷物を持ってフロントへ向かう。
鍵を返し、チェックアウトの作業が終われば、「 さようなら 」 である。
この間、どこに 「 サービス料を請求されるようなサービス 」 があるのか。
すべては、客の 「 セルフサービス 」 によって行われているわけで、従業員と接触を持ったのは、到着時、出発時の清算だけである。
お客さんによっては、付近の地理を尋ねたり、夜中に体調を崩して救急車を呼んでもらったり、財布が見当たらないので探してもらうこともあるだろう。
近所の 「 安くて美味しい店 」 を教えてもらったり、穴場のデートスポットを耳打ちしてもらったり、特別な 「 サービス 」 を享受することもある。
そういった 「 便宜をはかってもらったとき 」 に、それ相応のサービスへの謝意を 「 結果に対して 」 支払うのが、本来の 「 サービス料 」 だろう。
先日、そういった不信感をホテルマンに話すと、日本の 「 サービス料 」 というのは、「 料金の一部である 」 という感覚なのだとの答が返ってきた。
同じホテルを利用するにしても、サービスを受けようとする範囲というものは客によって違うし、その日の状況によっても異なるだろう。
また、そこで働く従業員全員がすべて、提供するサービスの質に差がないということも、現実的には考えにくい。
それなのに、誰に対しても、誰が応対しても、一律同じ 「 サービス料 」 を客に課すというのは、対価という尺度で考えると、逆に不公平な話だ。
部屋代は、立地条件や、内装の具合、備品の充実度などによって設定し、サービス料は、提供するサービスの質と量によって決められるべきである。
この 「 一律 」 という概念でいくと、「 使ったもん勝ち 」 なので、我侭な客は無尽蔵にサービスの提供を要求し、なんでもかんでも甘える危険がある。
ホテル側、従業員側は、「 やっても、やらなくても儲けは同じ 」 なのだから、競ってサービスの向上に努めようとする意欲が湧きにくい。
これを 「 チップ制 」 にすれば、些細なことなら、客はなるべく自分で解決しようと心がけるし、あまり無茶な要求は控えるようになる。
従業員側は、客の要求が 「 報酬 」 に直結するので、たえず客の動向には気を配り、なにか困ってそうなら、笑顔で飛んでいくような習慣が身につく。
ホテル側では、従業員に対して 「 チップを稼ぐ機会を提供している 」 ということで、彼らに対して支払う賃金を、最下限に抑えることもできるはずだ。
もちろん、「 チップ 」 など取らなくても、質の良いサービスを心がけている人や、誠意ある対応に努めている人も、たくさんいる。
しかしながら、特に日本人というのは、お店で優れた接客を受けても、素直に感謝の気持ちを述べたり、言葉で伝えようとする人が少ない。
あるいは、不愉快な思いをしても、黙って 「 泣き寝入り 」 する人もいる。
これを 「 チップ 」 という 「 形の見える基準 」 に置き換えることで、顧客の満足度や、自分のサービスに対する価値などが、明確に見えてくる。
旅館では、仲居さんに 「 こころづけ 」 を渡す習慣があるけれども、あれは到着時に渡すものなので、「 結果に対して支払う 」 チップとは性格が違う。
日本国内で 「 チップ制 」 は、習慣的に浸透しにくいかもしれない。
人によっては、「 チップ目当てで働いている 」 という姿勢を、こころよく思わなかったり、違和感、嫌悪感を抱く可能性も否定できないだろう。
しかしながら、商品を売って代金を得るのと同じように、提供したサービスの結果に対して、相応しい対価を得るのは当然のことでもある。
欲得や報酬にこだわらず、「 お客さんの笑顔が一番です 」 みたいな図式は、たしかに清廉ではあるけれども 「 プロの論理 」 ではない。
ホテル、レストラン、タクシー、ゴルフ場など、「 サービスのプロ 」 を養成することを目指している企業なら、導入を検討されてはいかがだろうか。
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