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2004年03月09日(火) 映画 『 THE HOTEL VENUS 』 評


大阪の劇場で、映画 『 THE HOTEL VENUS 』 を観た。

この作品は、様々な点において、エポックメーキングな作品といえるだろう。


物語の骨子は、うらぶれた安宿 『 VENUS 』 に、それぞれ異なる絶望や、諸事情を抱えながら集う人々の、人生模様を描いたものである。

この映画は、いろいろな面で 「 かつてない試み 」 がふんだんに織り込まれた日本映画として評価できるが、最初に 「 ダメな点 」 から説明しよう。

私自身、この映画はたいへん気に入っているし、けなすつもりなど毛頭ないのだが、欠点をはじめに述べたほうが、信憑性の高い解説になるはずだ。

それは、「 物語が陳腐 」 ということなのだが、全体の雰囲気や、革新的な映像など、総合した出来の良さを鑑みると、まるで問題にならない。

ハリウッド全盛期のミュージカル映画でも、物語自体は陳腐な “ 名作 ” が多く含まれるのと同様に、この作品には物語以外に傑出した点が多い。


個人的に一番好きなのは、冒頭の 「 タイトルクレジット 」 である。

それは、主演の 「 草なぎ 剛 氏 」 が、寄ってたかってコテンパンに殴られる映像に、「 LOVE PSYCHEDELICO 」 の主題歌が覆い被される。

この曲は、宣伝用のテレビスポットなどでも頻繁に流されているが、邦画のタイトルバックとしては、過去最高のものではないだろうか。

もともと彼らの楽曲は好きな部類なのだが、迫力あるサウンドと、耳に馴染みやすい滑らかな旋律が心地良く、硬派な映像とも見事にマッチしている。

冒頭から、イキナリ凄い印象を与えるので、「 つかみはOK 」 なのである。


原作を読まずに観たので、この 「 何かを期待させる冒頭のインパクト 」 が逆に、最初に申し上げた 「 物語の陳腐さ 」 につながっていく。

まぁ、この程度の脚本でも感動する人はするだろうし、泣く人は泣くのかもしれないが、その後の物語はどちらかというと 「 ありがち 」 な設定である。

欲を言えば、最後に 「 あっと驚くような秘密 」 とか、予測不能なオチなどがあれば嬉しいのだが、それほどの “ 仕掛け ” は用意されていない。

それでも、キャストに個性的な日本の俳優陣、韓国の俳優陣を配し、舞台劇のような展開が続くので、観ていて飽きるということはない。

ご覧になれば解ると思うが、「 日本映画史上、かつてない革新的な映像 」 が繰り広げられ、物語の精度が低いことなど、さほど気にならないのだ。


一番に革新的なのは、「 全編韓国語 」 というところだろう。

ご存知の方も多いだろうが、草なぎ氏は韓国語会話の達人で、この作品においては、語気を荒げるような台詞でも、見事に感情を込めて流暢に話す。

もちろん、市村正親氏をはじめ、他の日本人俳優も皆、韓国語で話す。

撮影が行われた舞台は韓国ではなく、ロシア領のウラジオストックなのだが、この街の持つ独特な雰囲気が、個性的な世界観を醸し出している。

それが、「 二番目の革新 」 である 「 パートカラーのモノクロ映像 」 にあいまって、懐かしいような、新鮮なような、不思議な世界へ引き込むのだ。


結論的にお伝えしたいことは、「 観るべし 」 ということである。

この映画は韓国でも上映されるそうだが、おそらくは現地でも、大きな話題となり、関心を集めるだろうと思う。

トム・クルーズに侍の格好をさせるのも悪くないが、邦画の新しい試みとしての国際交流を考えると、こちらのほうがより 「 画期的な作品 」 といえる。

映画よりも楽しめるかもしれないが、物語的に特筆すべきものがみられないので、「 原作を買ってまで読むことは・・・ 」 あまりオススメしない。

だから、「 本は読まず、物語は深追いせず、作品の世界観にだけ浸る 」 というスタンスをもって、ぜひ、劇場でご覧いただきたいと思う作品である。






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