2004年03月06日(土) |
日本映画のDVDは少ない |
昨夜は、映画 『 たそがれ清兵衛 』 をテレビで観た。
劇場でも観た作品だが、最近の時代劇では秀逸といえるだろう。
外国人の視点で描いた 『 ラストサムライ 』 と比較するのもナンセンスな話だが、“ 日本製 ” のほうがずっと良い仕上がりになっていると思う。
侍をテーマにした映画では、「 武士道 」 というものにスポットが当てられがちだが、名作と呼ばれる時代劇には、別の要素も織り込まれている。
それは 「 土着性 」 であり、家族や、故郷に対する敬愛である。
武士道の世界では、藩主、城主に対する忠誠心が美学として描かれやすいが、実際には、それは生まれた土地を守り、家を守ることに通じている。
この映画の主人公が、心ならずも果し合いに参加する背景には、上司への服従とか、忠誠の念ではなく、家族や組織の存亡を担うところにある。
アメリカの西部劇と日本の時代劇には、土地を愛する気持ち、守ろうとする決意などに、とても似かよった部分がある。
たとえば、不朽の名作 『 シェーン ( 1953米 ) 』 では、開拓者が自分たちの土地を地元のならず者から守るということが、物語の骨子になっている。
異なるのは、アメリカは建国の歴史が浅い故、それが 「 先祖伝来の土地 」 ではないというところだろうか。
西部劇でも時代劇でも、アクションに主眼をおいた娯楽作品では、土地は農民のものであって、ガンマンや侍は 「 手段 」 として扱われることが多い。
しかし実際には、流浪のガンマンやら浪人を除けば、大半の者は定住する土地があったはずで、そこには確固たるコミュニティが存在したのである。
基本的に、どのジャンルの映画でも、住居を構えない 「 流れ者 」 の主人公が登場する作品は、うそ臭いというか、現実味に欠ける部分がある。
また、現実には、いくら剣術に長けていても、仕える主や、定住する土地を持たない者を 「 侍 」 と呼ぶことへの矛盾もある。
そういう意味では、日本映画史上に燦然と輝く 『 七人の侍 ( 1954東宝 ) 』 も、正しくは 『 七人の浪人 』 といったほうが適切かもしれない。
もちろん、どこからともなく現れる流れ者のヒーローが大活躍する作品も、ひとつのエンターティメントとしては楽しめる。
ただ、『 たそがれ清兵衛 』 のように、普段の生活背景なども描かれていると、より、リアリティが増して、感情移入がしやすい作品となる。
昨今、過去に公開された名作のほとんどが DVD化 されており、観たいときにいつでも観れるようになっている。
これは映画好きにとって、我々が子供の頃には考えられなかった幸運とはいえるが、それでも、すべてが網羅されているわけではない。
特に、往年の日本映画については、商業的な成果が見込めないためなのか、あるいは他の諸事情によってか、まだまだ発売本数が少ない。
時代劇では、『 人斬り ( 1969大映 ) 』 という作品など、もう一度観たい。
出演者の顔ぶれは、勝 新太郎、仲代 達也、石原 裕次郎、三島 由紀夫 という豪華さだが、実に、仲代氏を除く全員が、若くしてこの世を去っている。
物語は、勝 新太郎氏が演じる 「 岡田 以蔵 」 を中心に描かれる。
彼は “ 人斬り以蔵 ” という別名を持つ、実在する土佐の藩士で、この作品では、少し頭が弱いけれども、剣の達人という設定になっている。
同じ土佐藩の 「 武市 半平太 ( 仲代 達也氏 ) 」 の指令で数々の殺戮を行うのだが、この作品での武市は、実に悪い奴なのだ。
石原 裕次郎氏は 「 坂本 竜馬 」 役で出ており、同郷の以蔵を助けてやろうと、こちらは “ いい人 ” を演じている。
作家の三島 由紀夫氏は、武市の謀略によって切腹を迫られる役柄だが、皮肉なことに、この映画の翌年には、実際に割腹自殺を遂げたのである。
私は公開当時に劇場で観て、数年前にテレビの深夜枠で観たことがある。
たまに、「 時代劇でオススメの映画は? 」 などと尋ねられることがあるのだが、もしもこの作品が DVD化 されていたら、きっと薦めることだろう。
新しい作品に心血を注ぐことはもちろん大事だが、ハリウッドと同じく、日本映画にも過去の偉大な財産があるのだから、積極的にリリースして欲しい。
歌やファッションの世界では、60年代の復刻仕様が活発に再現されているが、映画については、どうも不十分なようだ。
日本映画復興のためにも、過去の名作を若い世代に紹介する手だてを、関係各所にお願いしたい気持ちである。
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