2004年02月24日(火) |
ジェフリー・アーチャー評 |
あともう少しで、読みかけの小説が最終章に辿り着く。
ジェフリー・アーチャー 久々の新刊 『 運命の息子 』 である。
アーチャー氏は英国の代表的な作家で、実生活も波乱に満ちている。
英国議会に当選したかと思えば、週刊誌で売春行為を暴露され、名誉毀損で裁判を起こし、逆にその裁判中に偽証をして禁固刑に処されたりもした。
数多くの作品を生み出しているが、短期間に量産し、私生活のせいで間隔があって、忘れかけた頃に新作が書店に並ぶといった具合だ。
今回は久々の新作で期待したのだが、さほど評価できる出来ではない。
しかしながら、個人的に彼の作風が好きで、この作品にも随所に 「 らしさ 」 が織り込まれており、十分に楽しませてもらった。
映画を観たり、小説を読んだりする場合、それは作品の優劣もさることながら、自分にとって 「 好きか、嫌いか 」 という価値基準こそ大きいものだ。
良い映画とはいえないけれど、好きな俳優が出演しているから観たいとか、好きな作家による小説だから読みたいとか、誰しも経験があるだろう。
私にとって、アーチャー作品はまさにそれで、過去に出版をされた全作品を少なくとも二回以上は読んでいる。
もし、これから読もうとする方がいるなら、初期の名作 『 ケインとアベル 』、『 めざせダウニング街10番地 』 などをオススメする。
上・下巻にわたるような長編が苦手という方には、短編集の中にも傑作が多く含まれているので、そちらから読み始めてもいいだろう。
彼が新作を発表するパターンには一種の規則性があって、彼が得意とする上・下巻組の大長編の後には中篇か、ときには短編を出すことが多い。
だから次回は、久々の短編が出るのではないかと、今から待ち遠しく楽しみにしている次第だ。
短編集は、『 十二枚のだまし絵』、『 十二本の毒矢 』、『 十四の嘘と真実 』 があり、一冊の中に12〜14本の話が含まれている。
他の作家による短編集に比べて、私が読み飽きない理由は、サスペンス、笑い、感動など、逸話ごとに違った味付けが施されている点にあるだろう。
特に、サスペンス仕立ての短編には、ヒッチコック作品を彷彿とさせるような趣のある傑作もあり、長編の感動とは一味違う楽しみになっている。
短編の中で最も印象に残っている作品の一つに、『 高速道路の悪魔 』 という題名のサスペンスがあり、最後のオチには嘆息を漏らしてしまった。
ここから数行は “ ネタばれ ” になってしまうので、これから読むのだという方は飛ばして欲しいのだが、そうでない方のためにお教えしよう。
ある町の高速道路上において、連続通り魔殺人が発生する。
それをラジオから聴いて恐れる女性が運転する車を、一台の車が猛追し、車線を変えても、速度を上げても、どこまでも追いかけてくる。
やがて本線をはずれ、激突した彼女の車の後部座席には、ナイフを持った犯人が潜んでいて、後方の車は、危険を知らせようとしていたのだ。
このような絶妙のトリックや仕掛けが随所にあって、また、サスペンス調の話ばかりでもないので、それぞれの作品が新鮮な驚きを与えてくれる。
もちろん長編も、彼の作風に 「 ハマる 」 方にとっては一気に読めてしまう面白さなのだが、短編のほうが 「 万人ウケ 」 する仕上がりといえる。
アーサー・ヘイリー、シドニー・シェルダンなども似たような作風で、どちらも好きな作家だが、個人的にはアーチャー作品が一番面白いと思う。
それは、ひょっとすると彼自身の破天荒な性格や、波乱万丈の人生に味付けされたエッセンスのせいかもしれない。
未読の方は、ご覧いただいてはいかがだろうか。
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