「 男が牛耳っている社会だっていいわ。自分が女でいられるかぎりね 」
: マリリン・モンロー ( 女優 )
I don't mind living in a man's world as long as I can be a woman in it.
: MARILYN MONROE
児童・学生の諸君は冬休みも終わり、そろそろ学校が始まる時期だろう。
そこで今夜は久々に、ちょっと艶っぽい話でも書いてみよう。
先日、テレビのニュース番組を観ていたら、懐かしい風景に遭遇した。
それは、福岡市の繁華街からほど近い場所で、都市近郊のベッドタウンと呼ぶに相応しい住宅街である。
20代後半から30代後半までの約10年間、出張で九州方面を訪れる機会が多かったけれど、宿泊は当然、ホテルを利用することが大半だった。
例外として、一時期、ご当地の女性と交際していたことがあり、その間には彼女のマンションに泊まって、そこから仕事先へ向かった。
上司と一緒に出張した際には、同じホテルにチェックインして、夜中に彼女のマンションへ抜け出し、朝早くに戻るという 「 離れ技 」 も経験した。
実は、テレビで観た 「 懐かしい土地 」 というのは、そこのことではない。
こちらは、たった一度だけだが、それとは別の女性の部屋に泊めてもらったことがあり、数多い福岡出張の中でも、初めて訪れた地域だった。
当時は、誰とも特定のお付き合いはしていなかったのだが、得意先の接待で同行したラウンジで、なぜか初対面の美女と意気投合した。
調子に乗って閉店まで飲み続け、得意先をタクシーまで見送り、さてホテルへ戻ろうと歩き出すと、背後から肩を叩かれた。
振り返るとそこには、さきほどの美女が笑顔で立っていたのである。
ちょっと小腹が空いていたので、なにか食べにいこうかという話になり、近くの寿司屋さんへ寄ることになった。
福岡の歓楽街 :中州 は、深夜遅くまで賑やかなところで、かなり遅い時間でも、新鮮で美味しい寿司を良心的な価格で食べさせてくれる店がある。
それから、小粋なショットバーで飲み直し、時刻は既に2時を回っていた。
実はこの日、まだホテルに チェックイン をしていなかったので、既に2回、ホテルに対して遅くなる旨を電話で伝えていた。
もう一度、念のために電話を掛けようと立ち上がったとき、彼女は私の肩越しに、 「 今からチェックインするのは、もったいない 」 と囁いたのである。
彼女は、「 キャンセルして、自宅のマンションに泊まればいい 」 と言う。
思えば小さい頃、「 お菓子やオモチャを買ってくれるという知らない人には、ついていってはいけません 」 などと、親に指導されたものである。
しかし、「 見知らぬ美女のマンションに行ってはいけません 」 とは言われたこともないし、もし言われていたとしても、都合良く忘れていただろう。
当時は、今よりもずっと元気だったし、警戒心も薄かったので、喜び勇んでタクシーに乗り、平静を装いつつも、胸中はパラダイスの気分だった。
そして、辿り着いたのが 「 懐かしい土地 」 である。
部屋に入るとすぐにシャワーを借り、交代して彼女が浴びた。
別に、シャワーから出ると財布が盗まれていたとか、「 美人局 」 みたいに怖いお兄さんが登場したというようなこともなく、静かな夜である。
部屋の中にはベッドとソファーがあり、一応、紳士的に 「 どこで寝ればいいのか 」 と尋ねたら、彼女は不思議そうな顔をして、ベッドを指差した。
だいたい、「 美味しい話 」 というものは、どこかに落とし穴があったりすることが多いけれど、ここまで来れば完璧で、一部の隙もないものだ。
しかも彼女は、ベッドに広げた私の腕を枕にして、灯りを消し、「 おやすみ 」 と呟いたのである。
ここで、「 おやすみ 」 と言われて、本当に寝るほど疲れてもいなかったし、無粋な人間でもなかったので、当然、それなりのアクションを開始した。
すると彼女は、驚いたように上体を起こし、飛び跳ねた。
照れているのかと思い、執拗に迫ると、今度は泣き出す有様である。
それも、「 しくしく 」 ではなく 「 うわーん 」 という感じで、恥かしくて泣いているというより、むしろ号泣に近い。
無作法はなかったと確信しているが、私には泣かれる意味がさっぱりわからなかったので、ちょっと途方にくれてしまった。
彼女の弁によると、「 泊まれ 」 とは言ったけど、「 SEX しよう 」 とは言ってないとのことである。
たしかに、そりゃそうだけれど、世の中には 「 あうんの呼吸 」 というものがあるし、前後の経緯から判断すれば、誰でも考えることは一つだろう。
しかしながら、別にからかわれているわけでもなくて、彼女としては本当に、一緒に泊まるだけと考えていたようで、お互いの見解は違っていた。
こちらとしては、「 旅先でのロマンスか 」 と思っていても、彼女からすると、「 親切に泊めてやったら、レイプ魔だったよ 」 みたいな言い草である。
しかも彼女は、「 私のボディガード 」 と呼ぶ猫を飼っていて、彼女が騒ぎ出したことで、猫まで 「 ふしゅぅー 」 と唸りだす始末で、困ってしまった。
当時、それほど女性に不自由していたわけでもないし、一連のやりとりですっかり冷めてしまったので、結局、「 もういいや 」 と諦めた。
それでも念のために、「 俺とは嫌か? 」 と尋ねてみると、「 好きなタイプなんだけど、よく知らないし 」 などという、トンチンカンな答えが返ってきた。
私は、「 じゃあ君は、よく知らない相手と同じベッドで寝るのか 」 という質問を投げかけたのだが、彼女の倫理観としてそれは 「 OK 」 なのだそうだ。
実際に、彼氏でもない普通の男友達と一緒に寝たりすることも多いそうで、だからといって、その場で親密な関係になったことはないのだと言う。
その後、ほとんど眠れない状態で朝を迎え、「 懐かしい風景 」 で見覚えのある駅から、西鉄に乗って仕事先へ向かったのである。
こういう 「 特殊な考え方の女性 」 は日本中に一人だけかと思っていたら、後日になって、実はそうでもなく、他にもいることがわかった。
ちょっと前に交際していた東京の女性も、後輩の男性と同じ部屋で一緒に寝たりして平気なのだと言っていた。
たしかに、貴女は平気かもしれないが、一緒に寝る男性が 「 平気 」 なのだとは言い切れないし、誤解を招くには十分すぎるほどの設定だろう。
しかも許せないのは、「 では、彼氏が他の女性と、何もしないけど一緒に寝るというのは平気か 」 と尋ねると、両者とも答えは 「 NO 」 なのである。
その理由は、「 私は真面目だから何もしないけど、あなたを含め男性は、いやらしいからダメ 」 なのだそうで、たしかに当たっているが腹立たしい。
世間では、よく 「 男社会 」 などという表現が使われ、男性の横暴さにより、女性は軽視され、蹂躙されているような話をよく聞く。
しかし、男は加害者にされたまま、被害者であり続けるような部分もある。
今度、生まれ変わったら 「 いい女 」 になって、こんな 「 トラップ ( 罠 ) 」 をいっぱい仕掛けてやろうかとも思う。
この一件から、なんとなく女性に対する猜疑心が強くなって、「 女は魔物 」 みたいな教訓を植え付けられたような気がしている。
あの駅がテレビに写った瞬間、懐かしいというか、苦い思い出が甦った。
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