部長motoいっぺい
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内々示から内示までは一ヶ月から二ヶ月あるものと考えていた。 ところが、内々示の二日後のことであった。
僕はいつものように会社で仕事をしていた。午後3時頃自分の机を離れて、別の人の机の付近で打ち合わせを行っていたところ、近くにいた女性社員が
「B課長が部長に呼ばれたみたいよ。もしかしたら内示じゃないかしら?」
と言った。
僕はその時、まさか自分の内示がこんなに早くでるとは信じられなかったのだが、「もしや」という胸騒ぎは感じていた。
席に戻ったところ、その予感は的中した。 僕に内々示を伝えた上司が、
「じゃあ、A君ちょっと・・」
と、先日と同じように僕を呼んだ。
目の前に座っていた同期のCが、驚いた目で僕を見つめていた。 僕は驚いた顔をすべきかどうか一瞬迷ったが、そのまま席を立ち、二日前と同じように打ち合わせ用ブースに入った。
「A君に正式に内示がでました。赴任先はアメリカ、辞令は1ヵ月後です」
「アメリカということは、E君の後任という事ですか?」
と僕は尋ねた。
というのも、その時の駐在の編成は筆頭駐在(駐在1号)と、年次で行くと5年先輩のDさん、そして2年後輩のE君の3人であった。Dさんは管理職であったため、交代要員も管理職または管理職に間もなくなる年次の社員であると予想していた。後輩ではあるがE君と交替と考えるのはそれほど不自然ではなかったし、なにしろ、E君が今年帰任するという噂を以前に聞いたことがあった。
「いいえ、違います」
と上司は言った。
「ということは、増員ですか?」
駐在室の業務が今後増えることが予想されていたため、増員もありうるかなとの考えからだった。
「いいえ、君はD君の後任になります」
「ええっっ!!(驚)」
管理職の後任に平社員の僕。かつDさんは将来を有望視されている先輩社員であったため、僕はとても驚いた。
「D君の後任だから、うちもエースを出さないとね(微笑)」
僕は、このありがたい言葉をずっと忘れないだろう。 余談ではあるが、この時の上司は、僕の会社生活の中で最も尊敬する上司の一人であり、いつも温かい言葉をかけてもらっている人であった。もしかしたら、次の筆頭駐在の可能性も大いにある人である。
「E君が帰任するっていう噂を聞いたことがあるんですが」
と僕は単刀直入に聞いた。
「うん、E君も駐在3号君(E君と同期、すなわち僕の2年次後輩)と交代します」
「ということは、駐在3人のうち、ボスを除いて2人が交代なんですね(驚)」
「そういうことです」
これは大変なことになったと一瞬思ったが、正式に内示が出た喜びがすぐにその不安をおおいかぶした。
座席に戻ったところ、近くにいた先輩社員が
「どこになったんや」
と尋ねて来た。 僕はこの先輩社員が、下馬評では次の駐在候補筆頭であったのでやや複雑な心中であったが、正直に
「アメリカ駐在です」
と答えた。 その答えを聞いた先輩社員の表情から、僕は何も読み取ることができなかった。
同じ課の人に内示の内容を伝え終わり、一息ついたところで僕は嫁に電話をした。
「正式に内示がでたよ」
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