新知庵亭日乗
荷風翁に倣い日々の想いを正直に・・・

2003年03月01日(土) 雨だれの窓に映った哀しい涙


僕のアパートは地下鉄のローム(ローマ)駅で降りて2,3分でつく5階だ、ソーニャはパリ国立音楽院の伴奏法という講義とレッスンを受ける為、毎日ピアノを練習していた、初めての巴里だというのに、あまり観光をしようとしない。
「ねー美術館に行かないの?せっかく巴里にいるんだから・・・」
「・・・・」
 ソーニャは日に日に無口になっていく、僕は無神経にもカナダの彼女の物を隠したりしまったりはしなかった、ソーニャには、経済的に半々の契約をしている友達と住んでいるんだ、恋人ではないし、将来の事も話もしていない、ディプロ−ムを取得したら、かってに国に帰ると約束しているという、少し嘘の入った話をした。
ソーニャはただパリオペラ座バレー団の練習を見たいと言った、コンサートガイドに問い合わせたところ、ガルニエでリハーサルがある事が解り、彼女は一人出かけた。

 雨がしとしと降りはじめて町並みが灰色に沈む、その夜ソーニャは帰ってこなかった・・・僕は夜の雨の中オペラ座界隈をソーニャを探してさ迷った。

雨だれ
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 朝になっても雨はやまず、うな垂れて部屋に戻った、寒い、熱が出てきたようだ、昼すぎ、未だ雨がふっている、アパートの管理人から電話があると知らされた、熱のある体でふらふら降りていった、ソーニャはオペラ座バレー団に母親の弟子がいてそこに泊まるという、ピアノはバレーの稽古場で練習するので「あなたにはこれ以上迷惑をかけられないの・・・色々ありがとう」
「待てよ、ミスナカムラにレッスン受けたいのだろう?どうするの?」
「手紙かくから、その時はお願いします、お達者で・・・」

 その時はどんなにソーニャが苦しんでいたか解らなかった、ポーランドの森の妖精はやがて静かな森へと帰っていった。
 ソーニャとの短い旅はFinとなった。

 雨だれの窓に写る僕の虚ろな顔、水の流れと僕の涙が、ショパンの「雨だれ」と融合して、哀しみを・・・流してはくれなかった。
・・・ごめんねソーニャ・・・



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