| 2002年12月14日(土) |
映画「AIKI」と、ロック歌舞伎「けいせい黄金鯱」と |
今日の夜、以前よりスーパー一座によるロック歌舞伎を観にいくことにしていたわけだが、その前に気になっていた映画を観ることにした。天願大介監督による『AIKI』という映画がそれだ。 この物語は、実在するデンマーク人武道家がモデルとなっているが、映画では日本人の若者として登場してくる。ボクシングに情熱を傾けていた青年が、ある日交通事故に遭って脊椎を損傷。下半身麻痺により車いす生活を余儀なくされた。自暴自棄になっていた彼だったが、<AIKI>=大東流合気柔術と出会って入門、次第に自信を取り戻していく・・・。ストーリーをごく簡単に説明すると、そんなふうになってしまって、お涙頂戴の「障害者もの」と誤解されそうだが、決して「安っぽい感動」を押しつけるような映画ではない。「障害者」が主人公として登場するので、「障害者」の現実の生活も映し出されてくるが、単に「障害者」のドラマではないのだ。誰もが人生のある時期にぶつかる壁にいかに対峙するかが描かれており、普遍的なテーマを含んだ「青春映画」に仕上がっている。決してきれいごとで終わらせまいとする制作側の心意気も感じられた作品であった。 主な登場人物の他に、三上寛、佐野史郎、田口トモロヲ、永瀬正敏、それと神戸浩といった面々がチョイ役で出演していて、それも面白かった。 それより何より、天願大介監督のことについて触れておきたい。今村昌平監督を父に持つ天願監督だが、なかなかユニークな存在である。1983年に寺山修司が監督を務めた映画『さらば箱舟』に美術スタッフとして参加している。また、「濱マイク」シリーズでは林海象監督とともに脚本を手がけている。監督としても数本撮っているが、特筆すべきは障害者プロレス団体「ドッグレックス」を追ったドキュメンタリー映画『無敵のハンディキャップ』を発表したことであろう。「障害者プロレス」を通じて、そこにかかわる障害者と周囲との関係を浮き彫りにしようと試みたこの作品は、大変面白かった。 今回の『AIKI』は、実在の人物をモデルにしながらも、フィクションだった。重いテーマを含みながらも、見終わった後に清涼感の残る「青春映画」だと感じた。
さて、映画鑑賞の後は、軽めの夕食をはさみ、ロック歌舞伎を観に大須演芸場に向かった。スーパー一座はかつて私も所属した劇団、それゆえ贔屓目に見ている面もあるが、同時に他劇団より一層厳しく見る面もあるようだ。 今回の『けいせい黄金鯱』は、並木五瓶(18世紀末に活躍)による原作を元にして、スーパー一座主宰の岩田信市さんが台本を担当している。いつもながら、台本の面白さには文句のつけようがない。音響、照明、その他の仕掛けも見事であった。今年は、宙乗りもあったことだし。でも、何より目を瞠ったのは、立ち回りの何とも見事なこと。それに随所に見どころもあった。新人が新人らしからぬセリフの言い回し(歌舞伎ならではの独特の言い回しは思いのほか難しいのだが)をしたかと思えば、ベテラン陣の「間の取り方」も絶妙であった。と、ここまではいいことずくめのようだが、終演後何故か私は物足りなさを感じていた。 全体としてみれば、確かに面白かった。ただ3時間超の舞台の中で、役者の緊張感が途切れる場面がチラホラと見えた。そんな場面を目にすると、観る側としては気持ちが急速に醒めていってしまう。幸いと言うべきか、その後ですぐまた物語世界に入り込むきっかけをつかむことはできたのだが。それから、終わり方がやや淡白な気がしないでもなかった。 あらためて思うのは、芝居というのはナマものだという実感である。その一瞬が勝負、まさに真剣勝負なのである。
明日は、静岡まで芝居を観に行ってまいります。今宵はこれにて失礼いたしまする。
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