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■ スタートライン ■ 今日はコージの参拾九回目の誕生日。 と云う事で、土曜日の夜、あたしはコージを御食事に招待した。 コージへのプレゼントも無い知恵を必死に絞って、 多分、彼が今一番欲しいであろう品を用意した。 特別な存在のコージへあたしの出来る限りの祝福をしてあげたかった。 美味しい食事にコージは喜んでくれて、 あたしのプレゼントも喜んでくれて、 あたしはコージを家まで送り届けた。 コージは車から降りるのを躊躇い、そして言った。 少し距離を置いてくれないか なるほど、また鬱なんだな。 また色々と考え始めてしまったんだな。 こうなってしまってはあたしはどうにも出来ないんだな。 さっきまでの穏やかな時間は遥か彼方へ飛んで行った。 お前は俺に何の期待もしていないと言うけれど、 俺は追い詰められている。 これ以上俺を追い詰めないでくれ。 頼むからほっといてくれ。 何度も耳にしたこんな会話。 アタシガアナタヲオイツメテイル? 其の時のあたしは、謂れの無い怒りのようなモノを感じ、 あたしはもの凄く心配してるんだ、 どうしてあたしの気持ちを判ってくれないのかと、 酷くコージを恨んだ。 またあたしは我慢を強いられるのかと、 酷くコージを憎んだ。 其れはコージも同じ事。 自宅に戻ったあたしは、どうにも治まらない気持ちを持て余し、 気が付けば泣きながらモリに電話を掛けていた。 あたしの話を聞いて! と云う願いをモリは快く聞いてくれて、 うちまで来い と言ってくれた。あたしは其の言葉に甘えて、彼の家まで車を飛ばした。 モリはあたしの話に最後までつきあってくれた。 あたしは話をしながら、少しずつ冷静さを取り戻し、 一体、何がいけなかったのかと深く考えた。 モリは言う 自分の気持ちを伝えるべきだ そして一冊の本をあたしに貸してくれた。 「心が雨漏りする日には」 中島らもも鬱病だった事を初めて知った。 あたしは早速家に帰り、モリに借りた本を貪り読んだ。 そしてあたしは、鬱病に対する認識の甘さを痛感した。 判っていたけど、判っていなかった。 あたしはコージに何も期待していないと言っていた。 でも其れは多分、自分に言い聞かせていたのかもしれない。 期待しちゃいけない、望んじゃいけない 其れでもあたしの心は期待を膨らませていたのかもしれない。 恋人ならば当たり前、 愛しているならば当たり前、 親ならば当たり前、 男ならば女ならば当たり前・・・ 当たり前だと決め付けていたのはあたしであって、 あたし達ではなかった。 「此処まではいいだろう」と甘えていたのはあたしであって、 あたし達ではなかった。 言ってる事と遣ってる事が違ってたのはあたしだ。 期待していない、と言いつつ、 あたしの言葉の端々や行動の一つ一つに見えてくる期待感を コージのアンテナは敏感に察知し、 結果、コージを追い詰める事になってしまった。 あたしはコージと云う人間をどれ程まで理解していたのだろう。 人には其々の感情や価値観が在るモノで、 あたしはコージの其れをどれ程まで理解していたのだろう。 あたしは自分の思い込みや妄想で、 コージを判断していた事に気が付いた。 常にロジカルに物事を判断しようと心がけていたあまり、 物事の本質を見過ごしていた事に気が付いた。 コージの為と言いつつ、本当は自分の保身の為だった事に、 ようやく今更ながら気が付いた。 あたしはやっとスタートラインに立った気がする。 あの時モリが居てくれて本当に良かった。 有難う。 また壱つ借りが出来ちゃったね。 あたしはコージと距離を置く事に決めた。 暖かい感じで距離を置く事に決めた。 |
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