三崎綾+☆ 綾 姫 ☆の不定期日記

☆ 綾 姫 ☆

短編小説 日本刀と拳銃 part4
2011年02月08日(火)
横浜から戻り、頭からの連絡を待ちながら、日々の仕事に追われて居た。
社長は、
「横浜からの連絡は?」
「まだ無いねん」
私も社長も苛ついて居た。何故見つからない?


数週間、百合子の消息はつかめなかった。
ある日の朝、店の電話がパンクするかと思うほど一気に鳴った。
「ママはおいでますか?!」
「ちょっとお待ち下さい」
店長が、ママお電話ですと呼びに来た。
「はい私」
それは百合子の客だった。
「ママ、今日発売の★★に百合子が店の看板娘と言う事で紹介されています」
「解りました。すぐに調べます。有り難う御座いました!!」
私の手の届かない地方の温泉地でソープ嬢をして居た。
私の縄張りの外では調べようが無い。
百合子の男は元裏家業だったんだ。私が甘かった。

すぐに一番近くの事務所に電話をかけて人を行かせた。
時すでに遅く、昨日退店しましたと言う。
写真は客寄せに、ギャラを払って掲載させて貰ったのだと。


「ええ根性してるやないっ絶対に捕まえてやるっ」


この後半年間、同じ事の繰り返しをして、追いかけ続ける事となった。
しかし、この逃走劇はあっけなく幕を閉じる事になった。



早朝、私専用の電話が鳴った。
「はい私」
横浜の頭からだった。
「姉さん、こんな時間にすいません。見つけました」
「殺してないだろうな?」
「男は鉄砲玉に使われてすでに死んでました」
「女は?」
「場末の一発屋に売られてました」
「そこから取り返す事は可能か?」
「可能ですわ。どないさせて貰いましょう?」
「今から行くから話しつけとして。逃がすなよ」
「解ってます」
「ちょっと遠いから時間かかると思うわ。半日かかると思うし頼むわ」
「お気を付けて」
「ありがとう」

社長が起きた。
「見つかったんか?」
「はい」
「何処でだ?生きてか?」
「東北ですわ。今から行ってきます」
「事務所には電話したか?」
「まだです」
「1時間後で良いんか?」
「はい」

事務所に電話をして、何時もの運転手を来させた。

手に包帯を巻いて居た。包帯の巻き方で解った。小指を落として居た。
「どないしたんや?下手売ったんか?」
「。。。」
「言わんかいな!」
「わし、組長に姉さんと一緒になりたいって言うたんですわ。そして自分で指落としました」
「何をしてるんや!あんたには将来があるやないか。私には将来は無いんやで」
「この仕事が終わったら足洗って2人で田舎にでも行って小さな店でもしましょう」
「。。。よー解った。あんたの気持ちは嬉しい。けどな、私はこの世界から足を洗うつもりは無いんや」
「何でですのん?もうこれ以上、自分を痛めつけてる姉さんを見たくないんです」
「昔の事言うたやろ?この世界で生きるしか無いんや。苦労して今の力を手に入れたんやで」
「解りました。ほなわしも一生運転手します。誰とも世帯持ちません。姉さんをずっと思い続けます」
「あかんわっ。結婚して子供作って幸せになり。私には出来ないから、あんたにはして欲しいんや」
「姉さんが結婚するまで、わしも結婚しません。諦めつきません」
「好きにしたらええわ。私も一生結婚しないで今の場所に居るから」
「姉さん寝て下さいね。時間かかりまから」
「ありがとう。気持ちしっかり受け取ったで。ほな寝かせて貰うわな」
「はい」


「姉さん、もう30分ほどですわ」
その声で目が覚めた。
「解った」
化粧を直して服を着替えた。


高速を降り山道を走った。
こんな所で、百合子が暮らせる訳が無い。
そう思うほど寂れた温泉地だった。

黒塗りの車が数台止まって居た。
その後ろに車を着けると、頭が前の車から降りて来た。

「姉さん、此処ですわ」
「で、渡して貰えるんか?」
「話しはついてますが。。。」
「なんや?」
「もう使い物になりませんわ」
「どういう事や?」
「見たら解りますわ」
「行こうか?」
「はい」

暗い路地を抜け、見るからに寂れた一軒家に入った。
玄関を開けると、やりてばばあが座って居た。

「遠い所お疲れ様でした。連れて帰って貰って結構です。ご案内します」

と言うと、置くの方にある薄暗い部屋の前まで通された。

「此処です」

深呼吸してドアを開けた。目を疑った。これがあの百合子か?!

「百合子」
「ママ」

生き生きと輝いて居た百合子は、陰も形も無くなって居た。
どれだけ苦労してん?何をしてたんや?

「ママごめんなさい。男にだまされて、こんな風になってしまったわ」
「もう良いから店に帰ろう。話しはつけたから」
「ありがとうママ。でももう私はあかんわ」
「何を言うてるねん」
「薬付けになってぼろぼろやねん。もう店では使って貰えないわ」
「そんな事あらへん。しっかりしーや」
「あの頃が一番楽しかった。ママには迷惑かけて本当にごめんなさい」
「もう良いから帰る支度しような」
「ママありがとう。服着替えるし外で待ってて」
「大丈夫か?」
「大丈夫。こんな汚くなった身体ママに見せたくないねん」
「解った。外で待ってるし出来たら呼んでな」
「ママありがとう」


私は外に出て、やりてばばあに百合子の着替えを手伝うように頼んだ。
荷物はカバン1つだと聞いた。
外で待ってると、やりてばばあの悲鳴が聞こえた。

「ギャー」

慌てて百合子の部屋へ行くと、舌をかみ切った百合子が口から血を流して倒れて居た。

頭が、
「どないしましょう?」
「医者呼んでやって。息のかかった医者おるやろう?」
「はい」
「薬の事は書かないで自殺とだけ死亡診断書に書かせて」
「はい」

若い衆を1人呼んで、
「どっかで部屋を取って来てくれるか?」
「車で30分ほどの所に、旅館がありますのでそこで良いですか?」
「此処にいる全員の人数分取ってや。今日は百合子の為に飲むで」
「はい。では貸し切りに出来るように手配させて貰います」
「頼むで」
「はい」
「私は車の中に居るから、後は運転手と話ししてや」
「はい」

車に戻ると運転手が、
「姉さん女は?」
「死んだ」
「どうしましょう?」
「取りあえず、世話になった所に電話をしといてくれるか?」
「はい。姉さんは?」
「私は疲れたし少し横になるわ」
「解りました」


残ったのは、カバンが1つだけだった。
カバンの中には、下着と服が数えるほど入って居ただけだった。
どんな生活をしてたんや?何をしてたんや?アホやなぁ。。。


カバンの底を触るとかすかな違和感があった。
「ん?」
カミソリで底敷きを切ると、私宛の手紙が出て来た。


そこには、銀行の貸金庫の場所と鍵の場所が書かれて居た。
客からだまし取ったお金を、銀行に預けて居たのだった。
男にだまされた事が解った百合子は、
このお金だけは守らないと。。。そう思ったのだろう。
使えばこんな死に方をせずに済んだだろうに。
私が探し出してくれるのをずっと待ってたようだった。

もっと早く見つけてやれば良かった。後悔だけが残った。



小さな葬式をあげ、遺骨は江ノ島の海にばらまいた。
百合子が昔言ってた。
「ママ、私ね、江ノ島の近くで店したいんだ」
「なんでさ?」
「だって夏はうるさくて、冬は静かでしょ?」
「多分ね。私は行った事が無いから解らないけど」
「何となく江ノ島が良いんだ」
「そうか」


遺骨は、薬のせいで骨の原型をとどめて居なかった。
花束と遺骨を海に流し手を合わせた。





そして、私は日常の生活に戻って行った。


しばらくして、精神病院に入院した。
そして私は、新しい人生を歩き始める事になる「きっかけ」を手に入れた。








この物語は、事実に脚色をくわえた「フィクション」です。