三崎綾+☆ 綾 姫 ☆の不定期日記

☆ 綾 姫 ☆

短編小説 日本刀と拳銃 part2
2011年02月06日(日)
3日後、何も無かったように百合子は出勤して来た。
「百合子もう落ち着いたのか?」
「はい。社長、ママ、ご迷惑をおかけしました」
営業電話の大嫌いな百合子が、待ち時間を利用して指名客に電話をして居た。
「お友達も連れて来てね〜待ってるわねっ」
社長と私は「どうしたんや?」と2人で笑って居た。大好きだったお酒もやめて店貯金を始めた。


毎日、日銭で稼ぐ仕事。
全額持って帰ると、財布からお金を抜き取る「ひも」がついている女も多かった。
店に来ている銀行で隠れて貯金をしている女も居た。
私は何時も店の女の子に言って居た。
「何時まで稼げるか、誰にも解らないんやから貯金しとかなあかんで」と。
しかし百合子は、全く聞く耳を持たず湯水の如くお金を使って居た。
その百合子が、1日の稼ぎの半分を貯金するようになった。
「どうしたん?何かあったん?」と聞くと「彼と店を始めたいから」と微笑んだ。



店貯金をし出すと持って帰るお金が減る訳だが、「アリバイ工作」みたいな「口合わせ」を頼まれた。
「ひも」と呼ばれる男達から「ママたまには一緒に飲んで下さいよ」と誘われる。
たまには付き合いで一緒に飲む事もあった。ご機嫌取りゴマすり作戦だと解って居ても。
「最近、持って帰って来る金が減ったんですは。最近は店の方は暇なんでしょうか?」と「ひも」が言った。
でた〜女の子を横目で見ると合図してるし。
「そやなぁ、この時期は暇やなぁ。毎年の事やからしゃあないなぁ。しかも上得意の指名客が最近店に来なくなったし、こいつも大変やと思うわ」
「そうですか。また宜しくお願いしますは。それはそうとこの間良い物を見つけましてん。ママこの日本酒好きでしたやろ?良かったら飲んで下さい」
プレゼント攻撃とご機嫌取りが始まるのだった。こんな事は日常茶飯事繰り返される事。
その場では「この子も頑張ってるんだけど、今の季節はあかんねん」とか言っておくのだが、稼ぎは全く変わって無い。店貯金をしてて持って帰る金が減っているだけだ。
こうして、あっちを立てればこっちが立たず、狐の化かし合いをする日々だった。


百合子は3ヶ月間、指名・売り上げ共トップに立ち、その地域では押しも押されぬソープ嬢となって行った。
ある日の事、
「ママ、お話があるんです」
「解った。飲みながら話す?それとも素面か?」
「仕事が終わったら、店で話しをさせて下さい」
「解った」


仕事が終わり、百合子が社長室に来た。
「ママ、実はピル抜きしたいんです」
「別に良いよ。だけど前もってお客様に言うとかないと迷惑かけるから、3ヶ月先くらいにしたらどう?」
「良いんですか?」
「良いんですか?って。身体が資本のこの仕事やから、ピル抜きはした方が良いよ。2ヶ月くらい遊んでも生活出来るお金は貯金したやろうて」
「はい」
「じゃあ、夏のボーナスシーズンが終わったら、ピル抜きで2ヶ月休みって事で社長には言うとくから、それまでに頑張って貯金しなさいよ」
「ママに怒られるかと思った」
「どうして?」
「ママに迷惑かけたのに、2ヶ月もピル抜きで休みが貰えるとは思わなかった」
「そんなアホな。身体壊してまで仕事せーとは言わないし。私のように子供が産めない身体になったら終わりやで。この仕事は身体が資本やから、ゆっくりしたら良いで。その変わりピル抜きが終わったらまた頑張って貰うからな」
「有り難う御座います。後3ヶ月頑張ります」


それから、ますます百合子は仕事をした。公休も出勤して指名客を呼んだ。
その頃から、百合子の悪い噂を聞くようになった。
「客から金をだまし取っている」と。


そして、とんでもない事が起きて、百合子は命を狙われる事になった。
命を狙ったのは・・・そう私なのだ。



好きなお酒を一切やめて、タクシーで通勤して居たのを「ひも」に送迎させ、
「ひも」が居ない時は、電車で店の近くの駅まで来て、ボーイに送り迎えをさせ始めた百合子。
プライドの高い百合子が、陰で「貧ボー」と言われるようになって言った。
何時も百合子の所へ来て居た、洋服屋と下着屋が私に言った。
「今までだったら、百合子さんに持って来た服は、全部買ってくれたんですわ〜それが最近全然服を買ってくれなくなりましてん。他に服屋が店に来てるんでしょうか?」
「服屋はあんたの所だけや。どんな店でも入れられる場所と違うでな」
「それを聞いてほっとしましたわ。ママに新しいスーツ持って来ましたで。お金は結構で御座います。何時も世話になってるから」
どうせ店の子から余分に取ったお金で仕入れたんでしょ。
腹の中で笑って、そして笑顔で「何時もすまんなぁ。社長に良く言うとくから」
「はい。有り難う御座います。また来週来ます」


私はこういうプレゼントを一切貰わないようにして居た。
自分の欲しい物は自分で稼いで買えば良いと思って居た。
社長が「ママ、権力も買ってるのと同じなんやからな」
相手は私を利用し利用したお礼で持ってくる。だから貰って置けと言う。
それがあの頃の現実だった。誰を信じて良いの?どれが本音なの?
自問自答を繰り返す日々。
それでも私はそこでしか生きれなかった。



百合子の指名客から私に電話がかかって来た。
「ママ、ちょっとお話があるんですが」
「店ではまずいでしょ?食事でもいかが?」
何時も息抜きで行って居た、ホテルのレストランで待ち合わせをした。
「此処は私の定宿ですわ。ストレスが貯まったら此処で息抜きしますねん」

にこやかに話をして居たのだが、意を決したように客が言った。
「実は、百合子に200万貸してるんです」
やっぱりか。
「何時貸しました?」
「先月です。もうすぐ百合子がピル抜きで長期休暇でしょう。ちゃんと返して貰えますかね」
「借用書は取りました?」
「いや、店貯金が600万ほどあるから大丈夫よと言ってたので取って無いんです」
「そうですか」
「嫁に内緒で貸してるんで、返して貰わないと困るのですが。ママ、百合子の店貯金を抑える事は出来ませんか?」
「通帳も印鑑も店の金庫にあるので、百合子は店を通してしかお金はおろせません。だけどキャッシュカードを作って居たらおろせるでしょう。作ったのか作って無いのかは、私にはそれは解りません。銀行もプライバシーがあるので多分言わないでしょう。聞いてはみますけど」
「宜しくお願いします」
「何でお金なんか貸したんですか。ただのソープ嬢と客の間柄で。店をやめたらしまいですやん」
「そうなんですが。。。」
「解りました。私の方も調べてみます」


店に戻り社長に客との会話を話しした。
社長は、
「ちょっと待った。そんな事に店が関与してたら、身体がいくつあっても足らないぞ。だけど店の恥になるかも知れないな」
「私もそう思って。百合子は構わないんだけど、この店の看板に泥塗られたら嫌やし」

新人が入ったら、百合子には内緒で電話をしてくれと言われ、
店付きの上得意客からは、私が名刺を受け取って居た。
百合子の指名客に手当たり次第に電話をかけた。
「もしもし有限会社★と申します」
そして、だいたいの事が解って来た。


プライベートな事を語らなかった百合子が、
客に対して自分の家族の事を話し出したと言うのだ。
親が病気でこの仕事を始めた。心臓手術では有名な先生に手術を頼んだのだが順番待ちで2年かかる。
裏金を積めば早く手術して貰える。その為には2000万必要。
NO1なのでお金を返すのは簡単。店貯金を600万してるので払えなかった場合も店から貰える。

私が把握しただけで、総額4000万くらいになって居た。
百合子は何を考えてるんや?!
親とは音信不通だと私も社長も聞いて居た。
百合子は客に嘘をついて金をだまし取って居た。

高額な借金をした相手には、身分証明書としてパスポートを見せて居た。
この仕事は、免許書・保健証を持たない女がいっぱい居た。
家族から逃げて本名を隠して働く女達。当たり前の事だった。

このパスポートは後に偽造と解ったのだが。。。

そして、ピル抜き長期休暇の日となった。
「ママ、少し彼の田舎に行ってのんびりして来ます。家の鍵をママに預けて行きますので、暇があったら風入れて貰えると嬉しいです」
そう言って家の鍵を私に手渡した。
「百合子あのな。。。」
問いつめようとしたのだが社長に止められた。
「百合子、ちゃんと帰って来るな?!」
「私はママに育てて貰ったんだし、この店でしか稼げ無いから戻って来ますよ」
私は言った。
「その言葉信じてるからな」


「信じる」
こんな言葉はこの世界には通用しない。
すぐに、百合子の住むマンションの不動産屋と管理人に手を回した。
「動きがあったら知らせてくれ」と。


一週間後、不動産屋から電話がかかって来た。
「ママ、例の部屋ですが、引っ越しの荷造りをしているようです。管理人から連絡がありました」
「解った。すぐ行くわ。ありがとう」

私から逃げられると思ってるのか。。。百合子。。。