三崎綾+☆ 綾 姫 ☆の不定期日記

☆ 綾 姫 ☆

短編小説 日本刀と拳銃 part1
2011年02月05日(土)
早朝、売り上げ集計をし終わってほっと一息ついた時、
プライベートな電話が鳴った。
この電話は、ごく限られた人しか番号を教えて居ない。
ほとんど使われる事が無い電話だった。

「はい、私」と出ると、
「ギャーッ」すごい叫び声と号泣している声。
一瞬誰だか解らなかった。
「だれ?!」
「百合子、ママ助けて〜」そこで電話が切れた。

百合子は何時もNO1争いに居る子。
背丈は170近くあり、腰まで伸ばした黒髪が綺麗で、
目鼻立ちも整いスタイル抜群。
唯一の欠点が男運が悪い事だった。

百合子は指名客の間を渡り歩く癖があって、
疑似恋愛か本当の恋愛か解らなくなる。
3ヶ月毎に男を変えて、失恋するとやけ酒を飲む。
やけ酒に一晩中付き合った事も数知れず、私は何時も言って居た。
「いい加減、男を見る目を養った方が良いよ」


百合子は私と似ていた。
親に愛される事も無く、1人で寂しい夜を過ごして、
寂しさから夜の仕事に入って、20歳になってソープ嬢になった。
私が直々に仕事を教えた子。
心の中に凍りを持ち、寂しさ故に男を変える。
満たされないと解ると、失恋したと言ってはまた男を変える。
男を変える度に家財道具一式捨ててしまう。
男を変える度に引っ越しをする。
稼いでも稼いでも、飲み代と引っ越し代で消えてしまう。
そんな生活をしていた。


パジャマを脱ぎながら社長に言った。
「社長、百合子が泣きながら電話して来たわ。行ってくる」
「車の手配は?」
「今から」
「すぐ手配しよう」
社長は事務所に電話をして運転手を来させた。
「俺も行こうか?」
「良いわ。女同士の方が都合が良いし」
「何かあったら電話してくれ」

迎えの車がついて、
携帯電話と鞄を持って、着替えもそこそこに私は家を出た。

家から百合子の住むマンションまでは、片道1時間の距離だった。
店から離れた繁華街のど真ん中、
超高級マンションの最上階に百合子の部屋はあった。
店に通勤するのが不便だからと何度も言ったのだが、
飲み歩くのが好きな百合子は、繁華街が好きだと笑った。


運転手が後部座席のドアを開けながら、
「行き先はどちらでしょうか?」
「市内の繁華街に。急いでるから」
「わかりました」
そう言うとドアを閉めて、猛スピードで車を走らせた。
後部座席で、たばこを吸いながら心の中で祈った。
「どうか無事で居て」
携帯から百合子の所に何度も電話したが、
呼び出し音は鳴るが、電話に出る事は無かった。

百合子のマンションの前についた私は、
「15分たって私が電話しなかったら社長に連絡して百合子の部屋に来て!」
そう言い残して、マンションへ飛び込んだ。
オートロックの暗証番号は聞いて居たのだが、
慌てて居たので、暗証番号を忘れてしまった。
鞄をひっくり返して、メモを探して暗証番号を打った。
エレベーターに乗った。
超高層マンションのエレベーター、
時間がすごく長く感じた。最上階に止まった。
百合子の部屋に走って行った。

マンションのチャイムを鳴らした。
中から男の怒鳴り声と女の号泣が聞こえた。
やばい!!
深呼吸しながら飛び込むタイミングを待った。
一瞬怒鳴り声がやんだ。
今だ!ドアを開けて家に入った。


家に飛び込んだ私が見たものは・・・


百合子が日本刀をかまえ、男が拳銃をかまえ向き合って居た。
「ちょっと待ちーや、2人共その物騒な物下ろしなはれ!!」
百合子は泣きながら日本刀を下ろした。
百合子の顔は腫れ、口からは血を流して居た。
男は「おどれは誰じゃ?」とドスの利いた声で怒鳴った。
「やかましー誰に物言うとるんじゃい、下ろせと言うたら下ろさんかい!!」

男と一瞬目が合った。
「姉さん、綾姉さんじゃ無いですか!」
男が言った。急いで拳銃を床に置いて正座をし手をついた。
「お久しぶりです。大阪でお世話になっておりました」

私が大阪時代、世話になって居た親分の運転手をしていた男だった。
「そのチャカこっちに貸し!百合子はシャワー浴びて来な!」
「ママ〜ありがとう」
百合子は風呂場へと入って行った。

男は百合子が居なくなると、土下座をして床に頭を着けた。
「姉さんお久しぶりです」
「元気やったんか?」
「はい」


部屋の中は荒れ放題となって居た。
「取りあえず、この散らかった部屋の掃除して貰おうか。これじゃ座る所も無いからな」
「解りました」

外に居る運転手に電話をしてた。
「ちょっと百合子の部屋まで来てくれへんか」
「はい」
部屋に来た運転手に、日本刀と拳銃を渡した。
「事務所で預かっててくれるように言うといてな」
「解りました。ママのお帰りを下でお待ちしていましょうか?」
「深夜にご苦労やったなぁ。そやけど、何時までかかるかわからへんから先に帰ってて。迎えが必要だったら電話するから」
「解りました」
社長に電話をして大事に至らなかった事を話した。


掃除が終わった時、百合子がシャワーから出て来た。
「飲み物出してくれるか」
「はい」
男が水割りを作って来た。
「酒はあかん。まじな話は素面でするもんや」
「解りました」
冷たい麦茶を一口飲んで・・・


「百合子、あんたは私の横に座り!」
百合子の目の回りと頬に痣が出来ていた。
舌を少し切って居たが大事には至らなかった。
縫うほどの傷じゃ無かったのが救いだった。
「あんたなぁ、私の商売道具に傷をつけてくれてどないしてくれるねん」
男に言った。
「えろう、すんません」
「すんませんですまんのは解ってるんやろうなぁ」
「はい」
「今、あんたは何をしてるんや」
「足を洗わせて貰いました。今は気質の仕事やってます」
「そうか。そやけど1度はあの世界に居た人間やし、けじめの付け方解ってるわなぁ」
「はい」
そう言うと、男は台所に行って包丁とまな板を持って来た。
タオルを包丁の柄に巻きながら、
「これで始末つけさせて貰います」



「ママ、待って」
百合子が口を出した。
「おまえは黙っとれ、今はこの男と話しをしてるねん。おまえとの話はその後や!」
「ママ勘弁したって〜私が悪いねん」
「おまえが悪かろうと、商売道具に傷つけてるんやからけじめが居るやろうて」
「解ってる。解ってるけどかんにんしたって」
「ちょっとまち!!」
「ママありがとう」
百合子は泣きながら言った。
男は包丁を床に置き、
「姉さん、知らぬ事とは言えどうもすいませんでした」
「社長には私から話ししとくから。今度こんな事があった時は南港に沈んで貰うで。ええな!!」
「解りました」


「お腹が空いたなぁ。焼き肉でも行くか」
「はい」
何時も行っている焼き肉屋が百合子のマンションから徒歩3分ほどの所にある。
電話をして席と料理を準備させた。
焼き肉を食べながら話をした。
「この仕事、身体が資本だからな。全身が商売道具だと言う事を自覚して日々仕事せなあかんぞ。売れる間に稼いで貯金して置かないと、何時までも今の収入は維持出来ないと自覚しとけ」
「はい。肝に銘じて仕事をさせて、1日も早く足を洗わせます」
「おいおい。此処まで稼げるようになるまで、私がどれだけ根回しして教育したと思ってるんや?後10年頑張って貰わないとなぁ」
「あっすんません」
3人で顔を見合わせて笑った。


同時にふと、やりてばばあの顔を思い出した。あの人はこれが言いたかったんだろうな。今頃どうしているのだろう。そんな気持ちになった。


「顔の痣がメイクで隠せるようになったら仕事に出て来るんやぞ。それか完全に治るまで休むか?」
「メイクで隠せるようになったら出勤します。これ以上、店に迷惑をおかけ出来ないし貯金しなきゃ」
「そうか頑張れ。出勤してくる前日には店に電話を入れるんやぞ。指名予約取るから」
「はい」