三崎綾+☆ 綾 姫 ☆の不定期日記

☆ 綾 姫 ☆

短編小説 ずっと貴方を愛してる part4
2011年01月23日(日)
当分の間は生活の心配は無かった。
そりゃ前の場所に居るよりはずっと貧乏だったけど、
それでも「お金で買えない物」が私の周りには沢山あった。
だから貧乏は全然気にならなかった。
お金よりも欲しいものが、いっぱい手に入ってた。

1人で寝てるより仲間と雑魚寝している方が多かった。
何時も誰かが泊まって居た。寂しくなかった。仲間の友情と彼の愛情があった。幸せだった。


落ち着いた頃、彼が1人で深夜にやって来た。
高校生だった彼は、大学生になって居た。
どちらからともなく求めあたしは彼に抱かれた。


前とは明らかに違う感覚。何度も何度も失神した。
あんな仕事をして居たのに、SEXなんてこんな簡単で冷たい物だと思ってたのに、
感情や愛が入るとこんなにも暖かくて、心が豊かになって、身体が反応して。
あたしは完璧に、彼の抱かれるおもちゃとなって居た。
彼の指先1つでどうにでもなる・・・
何度も息が止まりそうになるほど失神して、それでも攻められ続けた。
荒々しさと同時に、愛情がいっぱい詰まったまなざしがそこにはあった。
気を失ったまま朝になって、気がつくと彼は居なくなって居た。
あんなに激しい夜をともにして、彼は平気で大学に行って居た。
あたしは、1日足腰がガタガタで使い物にならないくらいだったのに。


そんな日々がしばらく続いた。
抱かれる度に上手くなる彼。SEXの相性は完璧だった。
私は彼の愛情と身体の両方に溺れる事になった。
彼無しでは生きて行けない「身体と心」になった。


彼と私の関係は、誰も口にしない公然の秘密となった。
心のない女が、彼の前ではただの「恋する女」になって居たんだから、
仲間はきっと気がついて居ただろう。
だけど、仲間は「我関せず」の態度をとり続けてくれた。
それが私の救いでもあった。
1人を愛した為に仲間の輪が崩れてしまう。それが怖かった。


あの頃、彼が来ない日には、私は何をして居たんだろうと考える。
思い出せない。1人だからご飯も適当だったし、
掃除と言っても狭いマンションだし。
仲間が集まる時には彼も来るのだけど、彼は仲間と一緒に帰ってしまうし。
あたし・・・彼が来ない日は何をしてたんだ?!
家の前で、彼のバイクが止まるのを待ち続けた日だったのかも知れない。





この日の事は一生忘れない。ショックで立ち直れないとさえ思った日。


玄関で彼が呼ぶ声がする。「綾ちゃん居るか?!」
何時もなら、バイクで来る彼。今日はバイクの音がして居ない。
不思議に思ったけど急いで玄関に行きドアを開けると、何時もの彼の笑顔。
隣を見て私は血の気が引くのを憶えた。彼が彼女と言う人を連れて居た。

彼には彼女が居た。その事実を突きつけられた。
此処で取り乱しては私の負けだ。一瞬で頭を切り換えた。
仲間として接することにしよう。

「どうしたん?大学の帰り?」
「暑いし涼みに来た〜」
「そっか〜ゆっくりして行ったら良いよ〜彼女さんも気楽にしてね」

顔は絶対に引きつって居たはず。此処で彼に迷惑をかけるわけには行かない。
私は演じきろうと決めた。演じるのは得意だった過去を持つ私なんだから。
奇妙な三角関係の始まりだった。


彼女は、それから何かあると私に電話をして来るようになった。
「彼に用事があるんだけど、何処に居るか知りませんか?」
「彼が最近冷たいんですけど、何か聞いてませんか?」


彼は、私の家に泊まったから貴方には連絡をしなかったのよ。
彼が貴方に冷たいのは、私を抱いて居るからなんて、
口が裂けても言えなかった。

私は彼を援護し続けた。そして自分の愛を守ろうとした。
貴方も彼が居ないと生きていけないかも知れないけど、
私も彼が居ないと生きて行けないの。
貴方には絶対に彼を渡さない!!


彼の前では、相変わらずの私が居た。
抱かれては安心して眠る。その繰り返しだった。
彼には彼女との事は何も聞かなかった。
彼が話せば話も聞いたしアドバイスもしたけど、
私の前で他の女の話はやめて!!とは言えなかった。


彼とはどんな事があっても結婚出来ない。
10歳年下で、生きてきた環境も家柄も全く別の世界の人。
有名私立大学の1番難関と言われて居る科に軽々と合格して、
彼の人生のレールはすでに引かれて居た。
彼の人生をじゃまする権利は無い。じゃますることも出来ない。
私は此処で彼が来るのを待って居れば良い。
彼が私の事を飽きるまで、私は彼に抱かれて居たかった。


何も無かったように、彼が私の所に来た。
そして何時ものように・・・違う。何時もと違う。
「彼は違う女を抱いた」と確信した事がある。
SEXの仕方が変わって居た。
貴方は、私と彼女を間違えて抱いたの?
それとも、彼女を抱きたかったのに、私を抱いたの?
聞けなかった。怖かった。感触が違うなんて口が裂けても言えなかった。
もう終わりなんだ・・・




彼が、真っ青な顔をして私の所に来た。
「彼女が妊娠したかも知れない」
子供が出来ない身体になって居た私にとってその言葉は・・・


行きつけの産婦人科に電話をした。
どれくらい生理が遅れたら、検査に行けば良いのか。
2週間遅れたら検査に行けば解る。それくらいの知識は私にはあった。
ちゃんと1つずつ調べて、彼に説明して次からは避妊をするように言った。

「俺、大学やめて働く」彼がつぶやいた。
「何言ってるのよ!!
これからの貴方の人生、今まで努力して来た事が、すべて水の泡になって消えてしまうの。解ってるの?」
「・・・責任あるし」
「責任で子供は育たないの。今、大学やめたら一生後悔するよ。
あの時、子供を産ませたばかりに俺の人生は・・・って彼女を恨むかも知れないよ。
それでも大学やめるの?これからの未来のレールの向きを変えるの?
親にだって絶対勘当されるよ。良いの?私は絶対に嫌だからね!!」
怒りで手が震えて居た。


この時は、彼女を殺してでも彼の人生を守ろうと思った。
彼女に子供なんか産ませない。絶対に産ませない。
私が無い物は彼女からも取り上げてやる!!
そんな考えが頭をかすめた。


彼女から電話がかかって来た。
「ご心配おかけしました」
「生理は?」
「まだ・・・」彼女は電話口で泣いて居た。
「泣いてもどうにもならないし、取りあえず私の行ってる病院に行こう。
私もついて行くから。女医先生だし大丈夫だから」
「はい・・・」
「後1週間、生理が来なかったら、また電話してくれる?」
「はい・・・有り難うございます」

結局、生理が遅れただけだった。
私は産婦人科に行きピルを貰って来た。
「また仕事するの?」先生に聞かれた。
「違うよ〜私は足を洗ったの。お守りに変わりにするだけよっ」と笑って答えた。

貰って来たピルを彼に渡して飲み方を説明した。
彼女にピルを飲ませる事にした。彼女に電話をして私が説得した。
「彼にも貴方にも大学があって未来があるから、
今は避妊をちゃんとした方が良いし。
コンドームよりピルの方が安全確実だし。
飲み続けなければ副作用はほとんど無いから大丈夫よ」

鬼のような私が居た。ピルの副作用は知って居た。
最終決断は彼女がすれば良い。もう子供じゃ無いんだから。

腹の中は煮えくり返って居た。が、此処でそれを出してしまったら私の負け。
ある程度の人生経験をして来てるんだし、
私が大人になろう。そして彼を支えよう。
今まで貰った愛情と時間を、私の経験の欠片で返して上げよう。
それで、彼が元の生活に戻れるなら・・・




私の事、彼の彼女の事が重なって、精神的に彼は疲れ切っていた。
私はそんな彼を見て居るのが辛かった。そして彼は私の所に来なくなった。


私自身も、またいろいろと考えるべきことがあった。
彼との別れ、これから先の人生、心の風邪、子供の産めない身体。

彼がしばらく来ないのは感づいて居た。
そんな余裕も、その時の彼には残されて居なかったし、
そんな彼に来て貰っても私は全然嬉しく無いと思ってた。

彼に余裕が戻るまで「待つ」ことにした。
もしも、このまま別れる事になったとしてもそれで良かった。
泣いてすがって、「捨てないで」なんて言える立場でも無かった。
本気で愛してたけど、本当に好きだったけど、
終わりが来る事は初めから解って居た。
もしもその時が来たら、綺麗に身を引こうと初めから決めて居た。
一番最初に抱かれたあの時から・・・



「久しぶりに飲もうか・・・」
数人の仲間と彼が我が家に来た。みんなで大笑いしながらお酒を飲んだ。
私はおつまみを、せっせと台所で作っては運んで、話の輪の中に入って居た。
彼はずっと下を向いて居た。そして一言・・・
「綾ちゃんに出会えて良かった。俺、綾ちゃんと逢わなければ・・・」
私はわざと明るく言った。
「あたしこそ、みんなに出会えて良かったよ。
みんなが居なかったら、あたしはこの世にはもう居ない人なの。
みんなと出会えて本当に良かったよ」
そう言うと台所に行き、おつまみを作るふりをして、
下を向いて声を殺して泣いた。

彼と彼女の事で、あたしがした事のお礼の気持ちだったのか、それとも・・・
彼と別れる時が来たんだ。もうすぐ別れの言葉を、私から言う時が来る。



地獄と言う名の暗黒の世界から救い出して貰った。
人を愛する事を教えて貰った。
1人で生きて行ける勇気を貰った。
何より、人の暖かさと温もりを教えて貰った。
いっぱいいっぱい「ありがとう」を言わなければならないのは私の方だった。

高校生だった彼が大学生になり、少年が青年となって、
心を閉ざした、大きな過去を持つ私を支え続けてくれた。

ずっと後になって、彼が昼間からお酒を飲んで、荒れて居たと聞いた。
「俺に綾ちゃんを支えて行けるのだろうか」と悩んで居た事を聞いた。
十分支えて貰った。私の命を差し出しても良いくらい、彼には支えて貰った。
愛して貰った。もう十分・・・彼と私は仲間に戻るだけ。元に戻るだけ。
一生逢えない訳じゃ無い。その時はそう思って居た。

別れの言葉をちゃんと言おう。そしてちゃんとお礼も言おう。
ちゃんと幕を引こう。自分の為にも、彼の為にも。
そのチャンスを・・・私は待った。