三崎綾+☆ 綾 姫 ☆の不定期日記
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☆ 綾 姫 ☆
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短編小説 ずっと貴方を愛してる part3
2011年01月22日(土)
人の優しさに触れて、人の前で泣く事が出来るようになって、人を愛する事を知った私が居た。
彼の手のぬくもり。仲間の笑い声。 M君家族の家族のように心配してくれる気持ち。いろんなものがいっぱい手に入った。 辛い思いしても、悲しい思いをしても、 絶対に手に入らないと思っていたものを、胸一杯両手に余るほど私は手に入れて居た。 彼と居るだけでときめいて、彼と居るだけで女としての気持ちをもてるようになった。 そして初めて男の人に「抱かれたい」と思った。 彼と私は相変わらずの付き合いをしていた。 大阪まで足を延ばして日本橋の電気街にPCを買いに出かけたり、 京都の繁華街で手をつないで歩いて居た。 この場所から出たい。自由になりたい。 反面、出て生活して行けるのだろうか。地位も名誉も権力も何もない生活が私に出来るのだろうか。 不安と期待が交差する中で行動に出た。命のかかった大きな賭だった。 彼とショットバーに行って居る時、口から何度もでかかった言葉がある。 「抱いて・・・」 でも言えなかった。こんな薄汚れた身体を持つ私を、彼は心から抱いてくれるのだろうか? でも、私が言わなくても、きっと解って居たはず。 彼は「良いよ」と微笑みかけてくれているようだった。 私が行動を起こすのを解って居たのだと思う。 私が「決別」の決心をして、「行動」を起こすのを・・・ 祇園にある「京都ロイヤルホテル」そこは私の隠れ家だった。 1人になりたい時には何時もこのホテルに行き、 ルームサービスでワインとチーズで「ほっ」とする空間を作って居た。 「行きたいところがあるんだけど」と彼を誘って見た。 「うん、良いよ」 ホテルに手をつないで行った。 彼は何も言わなかったし何も聞かなかった。 チェックインは私が済ませた。鍵を貰ってエレベーターに乗って。2人共黙ったままだった。 部屋の鍵を開けた。無言のまま2人で部屋に入った。 私はベッドのヘッドライトだけを薄暗くつけて、後の電気をすべて消した・・・ 薄暗い部屋の中で、私と彼の鼓動だけが聞こえた。 2人でベッドの上に横になった。そっと胸に耳を近づけた。 暖かな鼓動が、何時もの倍の速度になっていた。 そっと顔に手を伸ばした。彼の身体を確かめるように少しずつ少しずつ・・・ そして彼の腕の中に落ちて行った。荒い息づかいと流れる汗と流れる涙。 男の人に抱かれて、嬉し涙を流す私が居た。 暖かな腕の中で、今までには無い「喜びと感激」を貰った。 何より「もう1度、やり直してみよう」と言う「勇気」を貰った。 「彼以外には、もう触られたくない!!」 彼の腕の中から出て、シャワーを浴びている間に決心した。 足を洗おう。地獄と言う名の暗黒の世界から。 ところが、シャワーを浴びて出て来ると、彼の姿が無い。 私は1人ぼっちで部屋に残されてしまった。 ベッドには彼のにおいとぬくもりが残ったままだった。 何時ものように、ワインとチーズを頼んで、1人でゆったりと流れる時間を持った。 彼が帰ってくれて良かった。彼が居たら「冷静」に考える事が出来なかった。 彼が私の身体に残して行った、愛情の余韻とワインの酔いで、私は久しぶりに深い眠りについた。 彼の匂いが残るベッドで、彼の腕に包まれて居る感覚が残ったままで・・・ もうあの場所に居る事は出来なくなって居た。 自分の心を偽って生きていくのは、もう嫌だ。 M君の母に行った。 「あたしバッチ返して来るわ。命の保証は無いけど、今のままよりずっと良い。足を洗うわ」 M君の母は涙を浮かべて「綾さん、頑張ってね」 もしかしたら永久の別れになるかも知れない。でも恐怖心は全く無かった。 これで死んでしまってもそれも私の人生だし。 生きてても死んでるような数年を送って来たんだから。 例え1夜限りだったとしても、すばらしい夜を彼と過ごす事が出来た。 それだけで生きて来た値打ちがあるってものだし。 彼がきっと私に勇気をくれる。支えてくれる励ましてくれる。 私には仲間が居る。そして彼が居る!! 社長に「引退させて下さい。足を洗ってこの世界から抜けたいんです」と言う。 もちろん大反対だった。何時間話をしても解っては貰えなかった。 時間をかけて、ゆっくり話をしよう。私の決心は変わらないんだから。 彼とも仲間とも、何も変わらず逢って居た。M君の家にも寝に通って居た。 着飾る事もしなくなった。日課の美容院も全く行かなくなった。 店にも顔を出さなくなった。もうこの世界で生きて行くのは嫌だ。 虐待を受けて真っ逆様に転がり落ちたあの日から、 凍った私の心の氷が仲間と居る事で涙となって溶けだして居た。 彼と居る事で暖かな心になって行った。 何時ものように仲間と会って、最終電車で地元駅まで戻った。 駅から店に電話をした。迎えを来させてと。すると社長が自ら来た。 頻繁に電車で出かけ、店にも出ず深夜帰宅する私に、社長が言った。 「こんなに夜遅くまで何処に行ってたの? 最近、仕事もしないし何時も留守だし、何を考えてる?」 「社長には、私の気持ちは解らないよ」と泣き出した。 泣き出した私を見た社長がついに・・・ 「足を洗って生きて行きたいのか?」 「うん。もう嫌やねん。なにもかも」 「解った。長い間ご苦労様。しばらく好きにしたら良い。その間に準備をしよう」 たった1度、彼と寝ただけ。 だけど、その事で私の人生は大きく変わった。 彼を愛し、彼を求めて、彼と手をつないで。。。 10歳年下の彼との出会いが私の人生を大きく変えた。 彼と出会わせてくれたM君に感謝して、仲間の笑顔に感謝して、 そして私は地獄と言う名の暗黒の世界から足を洗った。 もう2度と戻らないと決意して。 M君との出会いから、足を洗ってこの世界から出るのに数年が必要だった。 この数年間「裏家業の世界」と「光り輝く世界」の狭間で揺れ続けた。 足を洗う事は簡単な事じゃ無かった。いろんな柵の中でもがき苦しんだ。 「どれだけの犠牲をはらっても彼との愛を貫きたい。たとえ命がなくなろうとも」 この気持ちだけがこの数年を支え続けた。 もう死んでも良いや・・・ 私は人生の中で2度そう思った事がある。 厳密に言うともっももっといっぱいあるんだけど、 1度目は虐待を受けたあの日、 2度目はあの世界から足を洗ったあの日。 新しい住処が片づき始め、1人の生活が始まった。 仲間が頻繁に出入りしてた。 何時の間にか私の家は、仲間の溜まり場と化して居た。 仲間が私に寂しい思いをさせないようにと何時も気にかけてくれた。 私の小さな家は、何時も笑い声であふれて、暖かな笑顔に包まれて居た。 こんなに幸せな空間があるんだって・・・ 生きてて良かった!! |