三崎綾+☆ 綾 姫 ☆の不定期日記
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☆ 綾 姫 ☆
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短編小説 ずっと貴方を愛してる part2
2011年01月21日(金)
真夏の太陽が照りつけるその日、
私は何時も来ている派手な戦闘服を脱ぎ捨てて飾らない私になっていた。 戦闘服は私の鎧。私が私で無い時に「派手な偽物の私」を演出する為に来ていた戦闘服。 その戦闘服を脱ぎ捨てた。素顔の私で会いに行きたい。 デパートで買った真っ赤なTシャツとジーパンで家を出た。 メイクも要らない。心にも服装にも鎧は要らない。素顔の私で行きたかった。 鎧をつけて行く場所では無いとM君から聞いて居たから。 運転手が不思議そうに私に聞いた。 「ママ今日の服装は。。。どうなさったのですか?」 「鎧を脱いだだけよ、今日の私には地位も立場も要らないの」 「携帯持たれてますか?何かあったらすぐに。。。」 「今日は何も必要無いから。何も起きないし。きっと楽しい日になるはずよ」 運転手は会場まで送ると言ったが地元駅までの送迎にさせた。 私で行きたいの。私の足で行きたいの。どうしてもそうしたかった。 数ヶ月間、待ちに待ったみんなに逢える日。 その日ばかりは仕事もお休みをして、 護衛もつけずに乗り慣れない電車で1時間の距離を「心うきうき」させて目的地に向かって居た。 「もうすぐオフラインでみんなに逢えるんだ」 駅には見慣れた顔が数名迎えに来てくれて居た。初対面の人も居た。 もっとも、オンラインで会話をしていたから何も違和感は無かった。 顔と声それが文字と一致したと言うだけだった。 「えっ・・綾ちゃん?濃いわ〜(見た目の個性が強いと言う意味)」 「うるさいわ〜(笑) みんなはもう来てるの?此処からどれくらい歩くの?」 初めましての言葉は要らなかった。オンラインで会話していた私達には初対面と言う感覚が無かった。 15分ほど駅から歩くと小さな幼稚園があった。そこが今日の会場となって居た。 いろんな人が続々と集まって、思いっきり「ヲタクの集まり」と言う雰囲気になっていた。 当時は「草の根」と呼ばれて居たネットの「オフラインミーティング」と呼ばれる集まりなのだ。 文字と顔と声。。。すべてが一致するのがオフライン。 確かに少し変わったヲタクな人も居たし、 当時流行していたアニメをTシャツにプリントして着てる団体、 見るからに「うわ〜ヲタク」と思うような人、 いろんなタイプの人間が入り乱れて収集不可能となっている感じ。 まるでいろんな種類の入ったおもちゃ箱のような会場だった。 女性は私と後2人くらい居たかな?って感じ。 あの頃、草の根やってたのはほとんど男の人で女の人ってすごく珍しかった。 インターネットが主流の今の時代、草の根やってた女の人居る?って聞いても解って貰えないかも知れない。 光をくれたM君、そしてその仲間達数名は逢った事があった。 が、まだまだ逢いたい人がいっぱい居た。 今日その人達に逢えるんだ。 わくわくしてたのに、実際行って見るとあまりの人の多さに誰が誰だかわかんない状態。 M君に「この人は誰?この人は誰?あの人は来てるの?」イメージ通りの人や全然違う人。 いろんな人と出会えて、いろんな会話が出来て、楽しい時間を過ごして居た。 汗を光らせて入って来た1人の少年が居た。 筋肉のついた身体・頭が良さそうで、良い所の息子さんって感じの男の子。 彼と目が合った瞬間、彼の背中に光が見えた。目も開けていられないほどの眩い光。 「私この人を愛して行くんだ」一瞬で恋に落ちた。 一目惚れと片思いを同時に拾った瞬間だった。 あの頃、この少年は高校生になったばかりだったと思うが、ものすごく大人びてしっかりしていた。 どんな事を言っても、どんな事をしても、機敏とした行動と頭の良さ、でもざっくばらんで楽しい。 言葉数が少ないけど優しさをベールで隠して見せないようにしている人。 その日1日彼を見ていて感じた事はこんな所だった。 仲間の中でも年下の部類だったが、彼は何時も中心的存在に居て、 何かトラブルが発生すると彼に相談する事が多かった事は、仲間との会話で察しがついた。 この歳でこれだけのものが揃って居て、この人はどんな環境で育って来たんだろう。 厳しくしつけされてきた様子も無かった。 ただ親が教育者で姉も高学歴だと言う事くらいしか、彼は家庭のことは話そうとはしなかった。 仲間として付き合って行く内に、私が抱いた彼の印象がすべて事実だった事がはっきり解った。 私が言いたい事を1つ言うと3つくらい理解して行動してくれる人だった。 3つ言えばすべてが完璧に揃った。 彼とであった事で私のPCは飛躍的に環境が整い、私の使いやすいネット環境が整って行く。 成績はトップクラスだけど勉強している様子も無く、 だからと言って遊び人でも無いけど、何をやらせてもうまかった。 この人の欠点はなに?と思うほど、高校生の彼には欠点が見つからなかった。 長い間、凍った世界に居ていろんな男を見てきたが、 「これだけすべてが揃った人」には初めて出会って居た。 人を信じないと決めた日から、すべて自分の事は自分で決めるしか無かった。 自分の居場所を作る事も自分の人生も、何もかも自分で決めて居た。 心からすべてを出し切る事が出来る人は、私の側には居なかった、もしかしたら居たかも知れない。 私が心を閉ざしたままだったから気がつかなかっただけかも知れない。 仲間には何でも話せた。仲間が、仲間の笑顔が私に勇気をくれた生きる希望をくれた。 笑うことを教えてくれた。 人を信じること、自分をさらけ出して良い場所を貰った。 それがこんなに気持ちの良いものだとは思わなかった。 その中でも彼は別格だった。 ただ側に居てくれるだけですべてが理解して貰えた。 10歳年下なのに、私の悲しみ・苦しみいろんなものを、ただ側に居るだけで吸い取って行ってくれた。 この頃、M君の前で大泣きした事がある。 M君の家から駅までの間に小さな公園があり、私は駅まで送って貰う道中、急に泣き出した。 ベンチに座って涙をぼろぼろと流した。M君はただ黙って私の背中を撫でてくれて居た。 人前で弱みを見せる事は死を意味していた。 私はそうやって生きて居た。 まだ私の生きている場所は地獄と例えている裏家業の世界。 その世界に住んで居たのに私は号泣して居た。 何で泣いて居たのか、今となってははっきりしないのだが、 多分氷が溶け初めて、それが涙となって居たんだと思う。 彼と出会ってしまったから。 彼と出会って、彼の側で笑って彼に仲間として甘えていた。 そして気がついた。仲間では無いこの感覚。彼の側に居ると「ときめく」私が居た。 側に居たい。もっと同じ空間の中に居たい。 そして気がついた。彼のことを好きになった?! どんどんと彼が好きになって行った。10歳年下の彼を。 仲間と大勢で会う事もあったが、段々と2人だけで逢う事も多くなった。 まだ地獄に居た時だったけど、同じ家に暮らして居た社長は、 「彼は仲間の1人でパソコンの先生」くらいにしか思っていなかった。 それは私にとって好都合だった。私は人を愛せない人だと思いこまれていた。 その頃から「氷の女」から彼の前では「ただの恋する女」へと変わって行った。 自分を押さえることが出来なくなって居た。 あたし本気なんだ。でも此処から出て行く自信が無い。 今まで作って来たものをすべて捨ててしまって、1から生きていく自信が無い。 今のままが良いんだ。私にとっても彼にとっても。 そう自分に言い聞かせて居た反面、彼を思う気持ちは抑えられなくなって居た。 頭の良い彼は、私の気持ちを理解してくれて居た。 そして何とか此処からでれる自信をつけさせようとしてくれていた。 だけど、愛しては行けない人・愛される資格のない私。 何処かで自分自身を卑下して、自分の人生を恨んだ。 せめてこんな場所に居る私じゃ無く、 普通の仕事をして居る私だったら、こんなに苦しむ事は無かっただろうと。 ある日、彼が映画に連れて行ってくれた。 2人で仲良く空いた映画館で映画を見た。 映画館の中でそっと触れた手。そのまま黙って握りしめて居てくれた。恋人同士のように指を絡ませて映画を見た。 黙って頭を彼の肩に乗せた。彼の手のぬくもりと鼓動が聞こえた。 私の鼓動と彼の鼓動が重なり合った。 手のぬくもりが心の氷を少しずつ少しずつ溶かしてくれた。 何の映画を見たのかすっかり頭から飛んでしまった。 10歳年下の男の子と手をつないで映画を見ただけなのに、 何の映画を見たのか解らなくなってしまうほど私は恋をしていた。 もう彼しか見えなくなっていた。 映画館を出る時「お願いだから顔を見ないで恥ずかしい」と言った。 真っ赤な顔した少女のようなおばさんがそこに居た。 彼は「顔が赤いよ」と一言言って微笑んだ。 映画館を出た後も、しばらく京都の繁華街を手をつないで歩いた。 彼はいろんな事を私にさせてくれた。 電車に乗る事を教えてくれたし、パスに乗ることも教えてくれた。 タクシーで帰れば済む事やん。 私はそう思って居たのだが、それは大きな間違いだった。 普通に生活して行く為に必要な事を、1つずつ1つずつさせてくれて居た。 私1人にさせるのでは無く彼と一緒に。 彼と一緒なら何も怖くなかった。 護衛の居ない繁華街を歩くことも、どっちに行ってしまうのか解らないバスや電車に乗ることも、 顔の利かない店に入る事も彼となら出来た。 彼が私にくれたのは、愛だけでは無く「1人でも生きて行ける勇気」だったのかも知れない。 仲間とも頻繁に逢って居たし、M君の家には相変わらず通って居た。 6畳の部屋に8人くらいが集まって、PC談義に花を咲かせて居た。 ゲームの話かな?バイクの話かな?私には解らない話しだったけど、 仲間の笑い声が私の心の氷を少しずつとかしてくれた。 そしてそこには何時も彼が居た。 私はM君の家で何時も寝て居た。本当に無防備に熟睡していた。 彼らがどれだけ騒いで居ても、彼らの笑い声を子守歌にして私は深い眠りにつく事が出来た。 彼が居てくれる。ただそれだけの事だったけど彼は私のすべてだった。本気だった。 10歳も年下の高校生にひかれ、心をときめかせ顔を赤らめる、裏家業に住む私が居た。 2人で行ったカウンターショットバーやお寿司やさん。 祇園には彼と私の思い出が沢山詰まっている。 彼の高校の地元と言う事もあって、私は何時も気にかけて居た。 10歳年上の見るからに裏家業の女と手をつないで歩いていて、彼に迷惑をかけないだろうかと。 彼にも聞いた。けど彼は笑って私の手をギュっと握って微笑みかけてくれた。彼の包容力には脱帽だった。 同時に、私は部下や護衛の関係者に彼と歩いて居る時に何度も見られて居た。 顔を赤らめた少女のような私に、誰も私だとは気がつかなかったと後で聞いた。 人を愛すると、愛する人の側に居ると、人間が変わってしまうものなんだ。 裏家業に住んでいる女に手を出したら、どんな仕打ちが待っているか、 彼がどんな目にあわされるのか不安になった時もあった。 そんなことは彼は承知の上だったと思う。 それでも、私を黙って支えてくれた。ぬくもりをくれた。何より私の愛を黙って受け止めてくれた。 彼と行動をともにするのと同時に、私の周りでは目まぐるしく環境が変わって行った。 今でもたまに電話で話す友達が居る。地獄に居た時に知り合った一般の友達。 その友達にだけは、彼のことを相談して居た。 「私、好きな人が出来たの」 「え?!どんな人?」 「高校生なんよ」 「また、綾ちゃん・・・冗談でしょう?」 「本気だよ」 彼女は、私の地位も名誉も知って居た。ママとして君臨している姿も見ていた。 そして一言 「今の地位、捨てる事が出来る?」 「・・・・・・・」 「悪い事は言わないから諦めた方が良いよ。 高校生だよ、綾ちゃんは自分の立場を解ってる? 今まで苦労して来たものを、全部捨てる事になるんだよ。 それでも良いの?」 「彼と居たいの。本気で好きなの。でも、捨てられないものもあるよね。」 「冷静になった方が良いよ。よく考えた方が良いよ」 解ってる。解ってた。そうやって言われるって事は。 だけど、どうしようも無かった。 本気で愛してた。手をつないで居るだけで、少女のように顔を赤らめた私が居る。 側に居たい。愛してるの・・・例えすべてを失っても彼と生きていきたい。 だけど、捨てるものがあまりにも大きすぎた。犠牲も大きかった。 彼は絶対に結婚出来きない。 この10歳の年齢と、生きてきた環境の違いと、 何よりも私には彼を愛する資格がない。 表街道を歩いて来た訳じゃ無い。今も裏家業で生きている。 そんな私に彼を愛する資格がある?でも愛してるの・・・ 初めて男の人に「抱かれたい」と思った。彼と寝たいと思った・・・ |