「隙 間」

2011年02月28日(月) 「好かれようとしない」

朝倉かすみ著「好かれようとしない」

恋に奥手だが、男のひととそうなったことがないわけではない。

だけど、すぐに赤面してしまって、あだ名は「ユゲちゃん」だった風吹。
そんな彼女が、鍵屋に恋をした。

たぶん。

恋などとだいそれたことを、自分がしてしまった、などと、おそれおおい。

その声は、まぶたで聞いていたい。

しまった。
のどぼとけを見るのを忘れてしまった。

アパートの大家である老婦人は若々しく。

恥ずかしさを克服すべく通うことにしたベリーダンス教室に、共に通うことになった。

そこの女講師はまた、色っぽく。
きゅきゅっと引き上げた口角と艶めかしく小刻みにふるわす肢体を存分にふるう。

「好かれようとしないことよ」

あわあわあぎゃぁー、と迷走しかける風吹に、大家が人差し指を、ちっちっ、と揺らして教訓めかす。

鍵屋は大家の「イチバン若いボーイフレンド」で、また、ダンス講師のモノ、らしくもあり。

「あれこれ思うのは、ひとのこころ。
ふっと思うのは、神のこころ」

あれこれ思ってても、はじまりは、ふっと、だった。

鍵を、開けられてしまった。

スーツケースが、開かないんです。
暗証番号もあるのに?
玄関の補助錠も、役に立たないんです。
この間つけたばっかりなのに?

お仕事です。
来て下さい。



朝倉かすみが、面白い。

読んでいて、

言い回しや、
飛躍の仕方や、
後戻りや、
踏み締め方や、
うろたえ方や、

いさぎよさや、
往生際の悪さが、

あたたかいものとして、伝わってくる。

あたたかいもの、なんてほんわりしたものではない。

アツく、いや、やけどするようなアツさではなく、汗ばんでいるような、強い息遣いのようなもの、である。

しかしアツくるしいのではない。

絶妙な、アツさ加減で、ヌルいままなのかと肩透かしを食らわされているかと思っていたら、いつの間にか、ぐぐっとこころの真ん中が力んでいたりさせられている。

著者の「肝、焼ける」と似た舞台の作品といえる。

しかし、できればもう少し、「焼ける」ほどのアツさが、わたしは欲しいのである。


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