「隙 間」

2011年02月05日(土) 折れないようにしなればいい

課題の本、読んだ?

金曜のことである。
お多福さんが、ぷふう、と吹き出しながら訊いてきたのである。

社内で催されている次回の「人材育成・自己啓発促進GW」に向けて、課題図書が二冊出されているのである。

一冊目は、折れない新人のなんたらかんたら、いや、折れちゃうわたしの育て方、だったかもしれないが、それはざっと流し見たのである。

「何てタイトルだったっけ?」

七つの、なんとかがあったとか。

そうだ。

「セブン・センシズだっけ?」

燃やせ、体内の小宇宙(コスモ)!

「オーム!」

お多福さんが、呆気にとられた顔をしている。
隣にいる木谷くんは、きょとんとわたしを見ている。

懐かしの車田正美原作「聖闘士星矢」である。
しかも乙女座の黄金聖闘士・シャカを選んでみたのであった。

セブンセンシズとは第七感のことで、超感覚のことである。

ふたりは、蠍座の黄金聖闘士・ミロの「スカーレット・ニードル」をくらったかのように、硬直化したままであった。

「知らんのん?」

お多福さんは女性とはいえ同世代である。
知らないはずはない。
木谷くんは十年弱わたしより若いので、しかし男の子であったなら聞いたらことくらいあるはず。

「ああ。着せ替え人形みたいにできる、アレ、ありましたね」
「着せ替え人形っ?」

お多福さんが一瞬、ぎょぎょっとした顔になる。

「鎧みたいなのが、ガチャガチャって変形して着られるんですよ」

そうそう。

「着せ替え人形なんだ……」
なにやら誤解をしているお多福さんである。
いやそうではなくて、と説明しようとすると、

「変な趣味のおじさんはほっといて、さ、行こっ」

お多福さんが先を制し、木谷くんを促してゆく。
木谷くんは、じゃあすみません、と頭を下げながらお多福さんについてゆく。

うむ。
なにやら誤解されたままのような気がしてならない。

ここは二十階である。

……鳳凰幻魔拳!

精神をズタズタに破壊する恐ろしい魔拳である。

さて。

「三連休の金曜日に、図面チェックの最後をやるから」

お休みに申し訳ないけれど。

津市が、チームを集めて緊急スケジュール会議を開いたのである。

「14日まで、なんとかみんなで頑張ろう」

とりあえず、そこで終わるから。

BIMチームは、終わらないのである。
従来の二次元図面でアップした後、三次元に与えられなかったものを盛り込んで、モデルデータとして整えなければならないのである。

それでも、いったんの仮休息はそこで取れる。

「やっぱり、独り暮らしはいかんよぅ」

土曜出勤の古墳氏が、つぶやいた。

家庭がある皆さんは、こんな状況でも休んどるやん。
出てきてるのはうちらみたいなのばかりやない。

古墳氏は名古屋から単身赴任で、来てくれている助っ人である。
であるから、月に一度だけ会社の報告を兼ねて、週末夜行バスに乗って名古屋の奥さんと息子さんらに会いに帰っている。
そして月曜の朝に夜行バスから直行で出社、という過酷な週末である。

しかし、家族がいるから、と仕事をサボるのがよいと言っているのではない。

休日を仕事に使う歯止めが、ゆるくなってしまう。

割り切りが、寄り切られてしまう。

やらねばならないことを、あくまでも保険として休みにやらねばならないかもしれない「心配」をするのではなく。
保険であるはずの休みにやらねばならない「つもり」になってしまう。

それでもまだ周囲が、「休み」は休むべきだ、という考えを口にしあえる組織体質であるから救われているところはあるのである。

皆と同じようにとわかっちゃいるが、仕方がない。

仕方がないなりに、振る舞わねばならないのである。
まさに休日なしの始まりの一日目。
土曜の夜はあとわずか、である。


 < 過去  INDEX  未来 >


竹 [MAIL] [HOMEPAGE]

My追加