「ブツッ」
携帯のストラップが、千切れる音がしたのである。
千切れたのは、神田明神で買った「打出の小槌守り」であった。
「開運招福」
の金の小槌である。
あ……。
ここで動揺を起こすようなわたしでは、もうない。
「身代わりに厄をはらってくれたということもあるんですよ」
京の麗人が、にっこりと教えてくれたのを思い出す。
いや。
正しくは文字で教えてくれただけなのだが、行間の向こうで、わたしが勝手に微笑んでもらっていることにしているのである。
タイミングが、まさに絶妙に千切れてくれたものなのである。
午前中のことである。
金曜日健康診断の結果が、わたしだけ特別先に、知らされたのであった。
「至急検査結果のお知らせ」
このお知らせは、検査値が極めて正常値を外れた方に特別お知らせしております。
あらためて至急精密検査を受診され、結果をご報告ください。
「至急」である。
わたしは急かされることに、異様に逃避願望をかきたてられるのである。
落ち着いて異常値なるものの正体を見定める。
なぁん、いつものことがあ。
へたりと肩を撫で下ろす。
「なん、どうしたの?」
隣席の古墳氏が、どれどれと顔をのぞかせる。
血ぃが再検査の値ぃだといわれゆうがです。 わしもいつもいわれとるよ。 そうですか、仲間やないですか。
ついでに、千切れた御守りのことも話す。
「血管が、ぶちっ、と破裂するん違うの?」
ニヤニヤとうかがってきたので、脳溢血とか脳梗塞とか動脈硬化とかですか、と答える。
「十五分で動脈硬化かどうかとかがわかる新しい検査機器があるんだけど、やってみない?」
以前、イ氏に勧められてやってみたことを思い出す。
「まったく問題ないって出てますね」 「弾力に富んだ若々しい血管と?」 「そこまではわからないですけど」
あれは田丸さんではなく別の方だったと思うが、そんなことを話したのを覚えていたのである。
「脳みそはわかりませんが、血管は大丈夫な血管らしいですよ」 「じゃあ、脳みそはヤバイんじゃないのん?」
「オー、ノー!」
……。
さ、仕事仕事、と古墳氏は顔を前に戻す。
今月はまるっきり、弁当ばかりの晩ご飯だったのである。
作り置きも作る余裕なく、帰るのは日付が変わる前。
せめてもの野菜ジュースがせいぜい、である。
勝手だがこういう余裕がない時期だけでも、帰れば飯があるようなことを、ついつい望んでしまうのである。
「妖怪アパート」に出ているるり子さん(手首から先しかない、しかし絶品料理を作り出す幽霊)が、我が家まで出張してきてくれれば万々歳なのであるが。
かなわぬ妄想である。
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