大森。
久しぶりに、七時過ぎに退社する。 なんともまた珍しいことに、最近はずっと十一時頃までは仕事、という日々が続いていたのである。
どだい無理な話。
を強いていたものだから、我がオアシスの大森へ向かう足取りも急いたものになる。
「今日は竹さんがくる日かなぁって、イ氏と話してたんですよ」
田丸さんが、嬉しいことをいって迎えてくれたのである。
二週間ぶりなはずなのに、ひと月以上ぶりな気がする。
まだ一月だったのか。 二月になられていては困るのだが。 三日ほどしか振り返って記憶が、ないような気がする。
昨日はいつだった。 今日は、いつだ。 ほんとうに、今日か。
なんだかんだで、平日は四、五時間ほどしか寝ていないのである。 であれば、そういった記憶や感覚がなくなるのは仕方がないのである。
「だから早くデビューして、時間を自由に配分できる生活にならなくちゃ」
イ氏がやれやれと笑う。 笑われても、泣かれても、所詮どうしようもない問題である。
医の手が及ばないのだから、わたしの手も及ばない。 そっか、いつもより一錠、増やしてしのいでるんだ。 ええ、たまにリタ嬢のときも。
「まあ、無理しないで」
っていっても、ねえ。 イ氏は、ますますフリーランスな日々をわたしにたきつけようとする。
一番の問題はですね。 帰りに飯なり飲んで帰りましょう、との気遣いをしてくれたときなんです。 効果が切れて反動がズウンときてるのに、そんなのに付き合う余裕はありません。 帰っても食事つくる余裕もなく、買って帰るのが精一杯なのです。
そう伝えたとて、イ氏には何もできないのである。 うんうん、と同情してうなずいてくれるだけで、ありがたい。
四時間を切った睡眠だと舞姫は遠慮すべきなのだが、幸い、今の我が家からの通勤時間を考えると、それは夜中三時に寝るようななかなかありえない事態となるのである。
終電で帰っても、それには十分間に合う。
しかし、それがかなわなくなると、いくらそれが毎日ではないとはいえ、ひと以上にしんどい。 それは避けたい。 そうならないよう、日々自分で調整すればよいのはわかる。
しかし。
その日々のわずかな負荷さえ、できれば避けたいのが本心である。
「仕事から帰ってきた夫が毎晩ぼうっとしてます。何もしてくれず、まともに会話すらしてくれません」
ナルコの夫をもつ妻の嘆きがとある場所であったのだが。
まさに、その状態である。
そう嘆かせる相手などわたしにはいないのが、せめてもの幸いではあった。
それならこうすべきだ。 こうしなければならない。
そういわれてもなかなか出来ないのである。 出来るのならば、そもそもそうはならないのである。
だからせめて、休める時間だけは確保させて欲しいのである。
「皆さん、土日は久しぶりにゆっくり休みましょう。月曜日からはじまる怒涛のスケジュールを乗り越えるために」
そうなぎさくんらと話をしてあったのである。
まだまだ、続くのである。
であるから。 まるまる寝潰してやるか、存分に食ってやるか、とかく憂さや負荷を晴らしてしまいたい。
大森の夜に、強く願ったのである。
誓うに裏付けられる力が、己の体にないのが、切ない。
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