有川浩著「シアター!」
世には、「縁」というものが必ずや、ある。
なんとも久しぶりに夜七時過ぎに退社する。 共に仕事している同僚同期の大分県は、受け持ちが違うので退社時刻はわたしとはバラバラである。
その大分県。
実は「演劇小僧」なのである。
といっても「演じる」側ではなく、「観る」側なのである。
「竹さん、ほんっと、観に行くべきですって」
特にお気に入りは「東京セレソン」と、「大泉洋」なのである。
東京セレソンは、宅間さんが「スジナシ」に出演したのを観たのでわたしも聞いたことがあった。
ほんと、観に行かなきゃわからないだろうなぁ。
残念そうで、しかし誇らしげな顔でわたしに溜め息を、吐いているのである。
なにおぅ、そりゃあ商業劇団じゃあないけれど、劇団の役者と脚本やってた友や、同じ役者やってた友や、メジャーな役者の舞台をピンで照明演出やったセミプロの同級生や……。
……わたしだって。
蚕の吐く糸一本分くらいの「縁」を掴もう、と……。
観てるだけじゃなく……。
……なんだぞっ!
と叫びたいのを、ごきゅり、と飲み込み。
「生の舞台はまさに、麻薬、だよねぃ」
と賛同の意を示すにとどめていたのである。
とどめておかなければ、
「ぜんぶ、他人のふんどし、じゃないですか」
と笑われてしまう。
そうなったら、もはや今をとどまってはいられなくなってしまうだろう。
そんな折、ふと手にして読んでいた作品が、本著であった。
莫大な赤字を抱えた劇団シアターフラッグ。 脚本家であり主宰の春川巧が泣き付いたのは兄の春川司。
鉄血宰相と後に呼ばれる司は、演劇には全く知識がないがトコトン実利主義。
二年で借金三百万、俺に返せ。 それが出来なきゃ、そこまでの劇団。 とっとと諦めて畳んじまえ。
良くも悪くも演劇業界にどっぷり浸かりきった体質のシアターフラッグ。
赤字なんて当たり前。 好きだからやっている。 だから貧乏も仕方ない。
違う。 好きだけど、貧乏なんかしたくない。
鉄血宰相・司が、なあなあ仲良し主義だった弟、主宰で脚本の巧の本来の才能を見事に活かし、突き進んでゆく。
有川浩の登場人物たちは、湿り気が、ない。
サクサクとエッジを立てて雪山のこぶ斜面を跳ねるように滑降してゆくモーグル選手のようである。
ヘリコプター、3D。
ときに。
転倒。
斜面を、雪だるまのごとく転がり落ちてゆく。
どんどん大きく、勢いを増しながら。
小劇団の世界で、赤字解消、そして二年で三百万の借金完済を果たせる劇団になるべく、鉄血宰相・司が辣腕をふるってゆく。
「守銭奴結構! 金も稼げない返せない劇団なら、趣味だけにしちまえ」
作中の端々に、ぐっと胸にこさせられる言葉がちりばめられている。
ものを作る側と受け取る側の考え方の違い。
伝える側と伝えられる側の違い。
これはぜひお手にとって、読んで、劇場に足を向けてみていただきたい。
ふう。
モデルとなった劇団「Theatre劇団子」の方の解説を読み終えると、
取材協力に「東京セレソン」の名が。
ボンッと大分県の顔が浮かぶ。 えびぞー似のニヤリ顔で、ビシッと親指を立てている。
なんだか、悔しい気持ちがしみだしてくるのである。
なにおぅ。
と。
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