「北京の自転車」
をギンレイにて。
経済成長著しい中国の、その経済格差の溢れている現実のいち物語である。
村から出稼ぎに出てきた十七歳のグイは、自転車宅配便の仕事につく。 会社から貸与された高級自転車(MERIDAのバイク)は歩合制で稼いだ給料から支払い、やがて自分のものにすることができる。
やっと支払いが終わり自分のものになる、というそのとき、配達中に自転車を盗まれてしまうのである。
一方、クラスメイトの仲間のなかでひとりだけ自転車を持っていなかったジェンは、中古屋で自転車を買う。
その自転車は、盗まれたグイのものだったのである。
貧しい十七歳の少年が、ひとつの自転車をめぐって、出会う。
なぜ、たかが自転車一台に、ここまで執着するのだろうか。
そう思ってしまうほど、わたしたちのそれと中国の現実のそれには、深い溝があるのである。
かつては日本もそんな時期があり、それを先代先々代らが乗り越えてきた。
暮らすための日々のなか、一台の自転車の代金がどれだけかかり、どれだけ大事なのか。
さて。 飽食の時代、完全消費社会の申し子である。
「残酷な天使のテーゼ」が軽快に鳴り響き、エヴァが臨戦態勢の音楽がテレビから流れだす。
宮村優子とアスカが、正確にはアスカの格好をした彼女が、並んだ場面から、始まった。
「四国一周ブログ旅」
のDVDである。
稲垣早希が、現在もロケみつという番組で挑戦させられ、いや、している一昨年の四国版である。
赤札堂の朝市に目ぼしいものがなかったので、わたしはすっかり、午前中は部屋にいながらにして、四国へ旅立つことになったのである。
この作品は、旅を通してたくさんの人々と出会い、助けられ、前に進んだり進めなかったり、わずかずつ成長してゆくドキュメンタリーである。
四国編は四巻構成となる、かなり長期間の旅となっている。
おそらく三巻あたりから、高知県に入るのだろう。 そのあたりからが、わたしの昨夏の旅と合わせて、思いが複雑に交錯するに違いない。
と。
「ピーンポーン」
呼び鈴の音が、したのである。 先ほどまで、
「落ちちゃダメだ、落ちちゃダメだ、落ちちゃダメだ落ちちゃダメだ落ちちゃダメだダメダメダメダメだめだめだめ」
と戦いはじめた矢先だったのである。
「森竹さんですね」
玄関の扉を開けたわたしの、スコーンとがらんどうになっていたその頭に、宅配便の制服のようなものを着た青年三人のうちのひとりが、投げ掛ける。
「はあ、いや、それはお隣さんです」 「あっ、すみません」 「ばか、隣じゃんか」
なんだかわからぬが、じゃあ、と扉を閉めて部屋に戻る。 テレビ画面は、誰にというでもなく、虚しくメニュー画面を点灯させ続けている。
ああ、どうやら。
お隣さんが引っ越すらしいことを、大家さんが話していた。
それが今日だったらしい。
いかん、と急いで陽が傾きはじめる前に出かける。 ギンレイの時間にどうやら間に合わせ、そうしてその足でとんぼ返る。
明日の日曜は、とささやかな願望をこめる。
見上げた隣の部屋は、やはり既にもうがらんどうで、夜に口をぽっかりと開けていた。
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