「隙 間」

2010年11月21日(日) 「クレイジー・ハート」

「クレイジー・ハート」

をギンレイにて。

カントリー歌手としてかつて有名だったバッドは、今や地方のどさ回りで稼ぐ日々。

酒に溺れ、かつての教え子トミーからの新曲作成の頼みにも、素直に応じない。

トミーは今や売れっ子のアーティスト。

どさ回りのなか、ひとりのシングル・マザーであるジーンと出会う。

地方紙の記者で記事を書かせて欲しい、と始まったが、やがて彼女と愛し合う関係になり、彼女の幼い子どもバディともうまくゆきかけていた。

しかし。

アルコール依存症であるバッドに、

「お願いだらバディの前ではお酒を絶対に飲まないで」

との約束があった。
それを守っていたバッドだった。

それが子守りを任されたある日、ショッピングモールのバーでジュースを飲ませてあげようとしたときに、
「ちょっと探検してみるか」

と店内に興味津々だったバディに、ジュースが出てくるまで遊ばせてあげようと目を離した隙に、いなくなってしまったのである。

バッドは、まったく悪くない。

バディに言って、バーテンにひと言交わして振り向いたそのときにバディの姿が見当たらず、奥のトイレに行ったのか、昼間のひとが居ない店をすぐに隅々まで探したが見当たらない。

一分と目を離したわけではないのである。

しかしそんなことは関係ない。

ショッピングモールをかけずり、バディを捜し回る。

やがて警備員に見つけられて、さらに駆け付けたジーンに、

「不安だった。だけど」

信頼を裏切られた、と。

バッドはアルコール依存症の更正施設に入院し、信頼を取り返そうとする。

そして、トミーからの依頼も受けて、これからの人生をやり直そうと踏み出して行く。

本作品、とにかくいいひとばかりの、心温まる作品なのである。

かつての師弟関係だったトミーもまた、ものすごく、いい。

「あんたにカントリーのすべてを教わった。俺の師匠だ。あんたのおかげで、今の俺がいる」

「あんたは、まだまだ才能がある。俺はあんたに、それで手伝ってもらいたいんだ。だから、俺とあんたの新曲を作って欲しいんだ」

売れっ子のトミーのツアーの前座で歌って欲しい、との依頼がマネージャーからバッドにきたときがあった。

金のため、知名度のために絶好の機会だと、自分を納得させて会場に向かう。

「特別ゲスト」

そうバッドのことを書いてあったのである。

「やってくれるじゃねぇか」
バッドもつぶやく。
まさに、やってくれる、男気である。

さらに。

バッドが歌っている最中に、袖からそっとステージのバッドには知らせずに現れて、一緒に歌う。

「俺の師匠だ。俺も袖で、じっくり師匠の歌を聴かせてもらう」

観客に、バッドへの敬愛の気持ちを伝える。

まさにまさに、胸を熱くさせる男気である。

トミーの新曲依頼に、「俺はもう新曲なんか書けん」と断っていたが、ジーンとの出会い、ジーンへの想いを込めて、新曲を書く。

そしてそれをトミーに贈る。

「最高の曲だ。みんな気に入って欲しい」

ステージでトミーが披露しているのを背にして、袖で見守っていたバッドは立ち去ろうとする。

「新曲のギャラだ」

バッドのマネージャーから小切手を渡され、おそらく大金が書き込まれていたに違いない。

バックステージを出ると、ジーンが、いた。

地方紙ではないプレスカードをぶら下げていた。
一年ぶりの再会であった。

「素晴らしい曲ね」
「きみと出会ったから書けた曲だ」

小切手を、ジーンに渡す。

「受け取れないわ」

返したジーンの薬指に、指輪が光っていた。

「バディは、元気か」
「ええ、とっても」
「会わないほうが、よさそうだな」
「今のひとも、とてもいいひとよ」

飲みにゆく代わりに、この景色をみながらはなさないか。

広大な荒野の素晴らしい景色を指差す。

なんとあったかい出来上がりの作品なのだろう。

落ちぶれたベテランの再生劇といえば、ミッキー・ロークの「レスラー」が名作で有名だが、あちらはハードでヘヴィーだが、こちらはホットでウォーム、である。

この二作品を見比べてみて、違った満足感を味わってみてもらいたい。


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