「隙 間」

2010年10月23日(土) 「永遠を旅する者」

重松清著「永遠を旅する者〜ロストオデッセイ 千年の夢」

本作品は重松さんにとって異色の作品である。

といっても経歴からすれば、どれが異色というのかあやしいところは、ある。

ゴーストライターからルポルタージュから官能小説から、と様々な世界を経て、紛れもない重松清という作家になっている。

重松清が紡いだ言葉たち全てが、重松清の作品であり、小説という形をとっているに過ぎない。

異色、というのは、これは「ファンタジー」の物語だからである。

小中学生や中年男の物語ではない。

さて、タイトルを聞いただけで、ピンときたひとがいるかもしれない。

本作品は、同名のゲームソフト「ロストオデッセイ」の、サブストーリーなのである。

「ファイナルファンタジー」シリーズの坂口博信氏が製作総指揮をとり、キャラクターデザインを「スラムダンク」「リアル」「バガボンド」の井上雄彦氏が手懸けたらしい。

らしい、というのは、わたしはそういったゲームから、とんと関わることなく過ごしてきたので、家庭用ゲームといえば友らの家でやった、

「ドラクエさん」や「ファイナルファンタジーいくつ」の、立ち去る仲間がそこの選択肢で再び戻ることになるかならないか、のとこで、見事、ならないほうを知らずに選び、

「なっ、にぃ〜っ……」

と友の目と口をパッチリあんぐりと開けさせた憶えがあるくらいである。

友よ。

涙も喜びもないが、せめて手を叩いて「はっはっはっ」と話せる思い出をこしらえたと、思っていて欲しい。

さて、そんな次第であるから、ゲーム本作の物語は知らない。

主人公のカイムという、死ぬことが許されない、死ねない永遠の生命を持つ男が、その長き時間のなかで出会ってきた物語を、およそ三十ほどの短編に連ねたものである。

「ファンタジー」といっても、指から雷が突き出したり、のどに骨が刺さって暴れ狂う尻尾が生えた怪物が出てきたりなどしない。

剣を振るう兵士や傭兵や旅人や、軍事国家や船で渡らねば文化を知ることがない孤島や、そんな世界である。

そこにも、重松清の世界は、あった。

あとがきにも書いてあるが、重松清は「限られたもの」をテーマにして作品を書いている。

取り返すことができない過去。
選ぶことなどできない明日。
捨てることができない思い。
手放さねばならない思い。

だからこそ、それを前にした者、抱えている者、振りほどきたい者、追い掛ける者、それらの、矛盾のなかでの人間の力を、描いている。

本作品は、どれもたかが十枚程度の掌編である。

それだけで、果たして描けるのだろうか?

愚問であった。

限られた命の、だからこそ繰り返し一日一日を生きる姿。
待ち人を待ち続ける姿。
明日のために命を懸ける姿。

限られた命だからこその、強さ。
そして弱さ。
だからこその、強さ。

愛しさ。

家族。恋人。友人。同僚。部下。隣人。

きれいごとばかりを描かない。
だから、汚れてはいけないものが、一層、眩しく輝く。

ゲームがらみの小説なんて、と思うことなかれ。

重松清は、間違いなくここにいる。


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