「隙 間」

2010年10月13日(水) 「痴人の愛」

谷崎潤一郎著「痴人の愛」

ぶ厚いからと、なかなか手を延ばさずにいた作品だったのに、つい、三省堂の谷崎の棚でこの作品だけ、ぽっかりと在庫が抜けていたので、隣の東京堂、書泉などを覗き、それらにも見当たらず、やっきになって、やっと見つけて手に入れた作品でした。

手に入らないとなると、人間は無性に、常時はさして欲しくはないものでも、手に入れたくなるものです。

それはまるで、本作に登場するナオミに対する主人公の男が抱く思いと、よく似たものかもしれません。

カフエェで見かけた給仕の、ちょいと日本人ぽくない顔立ちをした少女ナオミ。

きっと素晴らしい女に、俺の思う理想の女に育ててやる。

男は十は離れた年下のナオミを引き取り、育て、教育し、やがて妻とします。

ナオミは男の理想以上に、美しく、妖艶な、女となるのです。

妖艶な、とはいささか違うかもしれません。

事実、当時、「ナオミズム」と流行語となったほどの、

「悪女」

っぷりなのですから。

谷崎は、フェティシズムやマゾヒズムなどをもりこんだ特異な作品を数多く発表しています。

この作品は、まさに男の、恋愛における自虐的愛、の物語、いえ、ひとり語り、です。

育てたつもりが手玉に取られ、かしづかずにはいられない。
悪女だと、懲り懲りな目に遇わされているのに、愛させられてしまう。

数多の男友達との関係を認めながら、それでも己の愛はナオミのその肉体に虜であり、決して離れることなど出来やしない。

そんな恐ろしいほどの魅力を持った女に、出会ってみたいものです。

いえ、出会ってしまっては困ります。
己の財産も誇りも何もかも、お構いなしに女に注ぎ込んでしまうのですから。

悪女は別として。
男女の違いも別として。

それだけ全てを投げ出してでも、愛したい。愛させてもらいたい。

そんな相手と出会ったことなど、おそらく皆さんの中でもいらっしゃらないでしょう。

いるはずがありません。

出会ってしまったら、今こうしてそこにいるはずがありませんから。

先を考えないほど愚かしい思い、衝動、行動。

きっと、読んだ方は大概が途中で馬鹿馬鹿しくなって、やめてしまおうと思ったことでしょう。

しかし、目を背けてはいけません。

直視出来ないところに、それはあるのです。

それを臆面なく描きだしている谷崎は、やはりたまにそれをみたい気持ちにさせられる中毒性を持っています。

とはいえ。

男性諸氏は、どうかナオミにはお気をつけください。


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