「隙 間」

2010年10月09日(土) Fly daynight

「竹さん、はい質問です」

背中合せの古墳氏に呼ばれたので、なんでしょう、と。

定時などすっかり過ぎ、イヤフォンを片耳にぶら下げた古墳氏が、右手を挙げている。

知識や経験はわたしより多く深い古墳氏の、だからこその盲点を、縦を平気で横にしてみてしまうわたしのやり方が光明をもたらす、ということがよくよくみられるようになっているのである。

他聞にもれず、やはりその類いの質問であった。

この入力だとこうなっちゃうんですけど、こう表示したいんですよ。
じゃあ、こう表示するために、この入力だと駄目なんでしょうか。
あっ、できた。

問題を公式や定義から解いてゆき解答にたどり着くのが正道である。
わたしは楽をしたいので、逆に解答から問題に戻り着こうとするのである。

こうなるから、こうなる。

という古墳氏。

こうしたいから、こうする。

というわたし。

わたしの恩師・九二さんに、かつていわれた。

いいか。
まず、正しい順序をたどってからの答えがありき、なんだからな。
最初っから、答えにたどり着くためのこじつけや、抜け道を探すのは、やめろ。

申し訳ありません。
わたしは相変わらず、でございます。

正しい順序は、古墳氏が進める。道が詰まったら、わたしが抜け道裏道にそらしてみる。

まあ、間違った道を進めているわけではないので、よしとしてもらおう。

「おうっ、違うっ。こうじゃない」

古墳氏が、わたしの一番目の横道で行き止まりにぶつかり、声をあげた。

じゃあ、と二番目を。

ああ、違う。わたしがいったのは、そっちじゃなくてこっちの。

しかし。

口が動いていない。

当然、声になっていないのだから、古墳氏が従うわけがない。

「あれ、ならんぞ。どうしよう」

だからそっちじゃなくてこっち。

「どうしましょ」

古墳氏が、黙ったままのわたしに次を求める。
えい、くそ、この。

「さっきのとこで、こうしたらどうでしょう」

おおっ、でけた。

古墳氏が、嬉々として振り向く。

よかった。
間に合った。

信じられないだろうが、束の間の最中に、わたしは落ちかけていたのである。
だから声が出ない。
しかし目はあいて考えているから、思考は進められる。

あと一歩で止まる、というところで、古墳氏の呼び掛けとささやかなわたし自身の抵抗で踏みとどまることができたのである。

シャッキリと爽快感のようなものを覚える、というが、もはやそんなレベルではない。

全身がすっからかんになったような、頭蓋骨の中がスコーンと虚空に成り代わってしまったような感じなのである。

「そんな感じでよかったでしょうか」
「おう、バッチリ」

古墳氏の求めていた道とわたしの抜道が、うまく同じ交差点に着いたことを確認する。

「さすがBIM部長」
「誰がBIM部長ですかっ」

すかさず切り返す。
最近、何かを解決した者をなんとか部長と称して賛辞するのが流行になっているのである。

鉄骨部長、カーテンウォール部長、躯体部長、塗り潰し部長。

キリがない。
部長だらけである。

大層にも総括的な命名をされた新しい部長は、もうすっかりこれ以上居残る余力などなくなっていたのである。

では、わたしは帰ります。あいよ、お疲れさん。

なんとも軽々しい扱いである。

よよよ、と薄らぼんやりした足取りで、ご帰宅である。

明日は池袋にて「ふくろ祭り・東京よさこい」の前夜祭である。

あいにくの空模様だが、「雨天決行」とのことらしい。

さて、いったいどうなるだろうか。


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