「隙 間」

2010年09月14日(火) 「森崎書店の日々」

八木沢里志著「森崎書店の日々」

第三回千代田文学賞の大賞受賞作品である。

千代田区を舞台・テーマにした作品を推奨するが、それにこだわらず作品を求む。

映画化が決まっており、十月から順次全国公開予定である。

「今度、結婚するんだ」

と。
突然彼氏に打ち明けられ、しかも結婚相手は同僚のかわいらしい女の子で、自分よりも前から付き合っていて、つまりは、自分はただの都合のよい相手にしか過ぎなかったことを知り、失恋と失業が同時に訪れた貴子。

神保町で古書店を営む叔父のサトルのとこで、しばらく住み込みの手伝いをすることになる。

古本と温かい街と人々に包まれて過ごす日々。

常連のお客さん。
行きつけになった喫茶店。
そこで出会った人々。

そして。

きみは大切な姪で、大好きで、だからきみを傷つけるヤツなんて、絶対に許せない。
だから、今から殴りに行こう!

夜中にタクシーを呼んで、貴子の為に本当に殴りに行く、叔父のサトル。

そして。

サトルを置いてふらりといなくなってしまったはずが、突然「ただいま」と帰ってきたサトルの奥さんの桃子。

親しい相手の頬を無意識でつねってしまう彼女に、やがて思う存分つねられ放題になってしまう貴子。

神保町が、大好きになる一冊。

作品中に出てくる「すぼうる」という喫茶店。
物語の様々な場面で舞台となっている喫茶店なのだが、ここは神保町にくるものならばようくご存知である名喫茶「さぼうる」であることは、容易に想像がつく。

かくいうわたしも、無職時代、リハビリ兼ねて毎日神保町に歩いて通い、二日に一日は、昼過ぎから夜になる直前まで、過ごさせていただいていた喫茶店である。

薄暗く落ち着いた店内。
時折、向こうのテーブルで装丁がどうのと出版の打ち合わせ話が聞こえてきたりする。
そちら側の耳だけをダンボにしながら、カリカリと己の小説を書き、ありえない出会いのきっかけはないだろうか、と過ごしていた。

「この席は寒いでしょう。あちらが空きましたので、どうぞ」

マスターやフロアの店員さんが、当時真夏で冷房を強烈に効かせていた店内で、あきもせず寒さに肩を縮こまらせながら居座っているわたしに、やさしく声をかけてくれたりしていたのである。

愛がある街。

その愛を、そのままに感じさせてくれる作品なのである。

ちよだ文学賞。

やはり次回から、出してみるのに挑戦してみよう。


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