朝倉かすみ著「そんなはずない」
「肝、焼ける」に続く、待ちわびていた著者の新刊である。
信用金庫に勤め、付き合った過去の男は八人、年齢は三十路ちょっと前、結婚の約束を取り付け、両親に紹介する日も間近、父母妹の四人家族。
手堅く順調な日々を、そちなく送ってきたつもりの鳩子。
両親に会わせる当日、彼にドタキャンされ、さらに勤め先の信金が閉店。
「そんなはずない」
という事態が、鳩子を襲いはじめる。
妹の知り合いである午来という男と付き合いはじめ、途端に私立探偵が鳩子の身辺調査をしはじめる。
さらに過去の男たちと会うはめになり、私立探偵が実は過去の男のひとりだったり、警察のエリート官僚だったはずのひとりが実はただの交番勤務だったと今さら告白されたり。
結婚をドタキャンした男が妹の塔子と恋をしたり。
鳩子と午来の付き合いを塔子が挑戦的に、あからさまに邪魔してきたり。
鳩子の「そんなはずない」日々を駆け抜ける姿と心を描いた作品。
とかく、朝倉作品の女性主人公は、体温が、しかも火照っているくらいの体温が、読み手に伝わってくる。
まっすぐで、そつなく振る舞っていてもどこかそれでは納まりきらなくて、器用なようで不器用で。
割り切れない余りを、切り捨てることが出来ず、切り上げることも出来ず。
じゃあ四捨五入すれば、と言われても、四と五の境目にある何かが捨ておけない。
だから、
もがく。 あがく。 まよう。 果てる。 諦める。
だけどやっぱり向き合って、なんとか自分に折り合いをつけさせようと、またあがく。
「いじらしい」魅力。
同性からみると、応援したくなる、なぜか気になる。 異性からみると、かなり厄介で、手強い。
手強いからこそ、好奇心が湧いてくるということもあるかもしれない。
つまりは、男女問わずに何かしらの魅力を感じさせる人物像なのである。
しかし、ベッタリ張り付いてみていたい、というような強烈な、ともすれば一転飽きが早く来てしまいそうなものではなく。
そばを通りかかったなら、ひと目会ってゆかねば気持ち悪い、くらいの、ほどよさなのである。
次作をみかけたら、またおそらく、手にしてしまうだろう。
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