「隙 間」

2010年08月17日(火) あわあわ、阿波おどり

「お休みは、どこかいかはったんですか」

CGの精鋭がひとり、本宮さんが、訊いてきたのである。
土産は京都のを配ってあるので、ええちょいと京都に、と答える。

「本宮さんはどちらかへ。帰省とか」

話し口調から関西であろう。
まさかここで京都とか、と予想してみたのだが、意外な答えが返ってきたのである。

帰省はしてないんやけど、仕事でここに来てました、と苦笑う。

後ろでひとまとめにして肩の辺りまで垂らしている黒髪が、一緒に笑うように揺れる。

「お国はどちらですか」
「徳島です」

徳島っ。
わたしが土佐から京都へのついでに立ち寄ろうかとしていた地である。

「阿波おどりがあったばかりじゃあ、ないですかっ」

つい、声を荒げてしまった。

「でも、うち、一二回しか踊ったことないねん。背ぇがな」

小学生の頃、学校で皆で授業中にやるのだが、本宮さんは背が高かったらしい。

背が高いと、連(チーム)の先頭かしんがりかで旗や提灯を振って歩く役目を仰せ付けられるらしい。

「じつは」

よさこい祭りに行ってきたのです、と告白し、室戸に泊まったことも白状する。

「うわっ、遠かったやろ」

想像以上でした、と苦笑う。

母方の実家がな、徳島やけどそっちのほうなん、と同情の表情を浮かべる。

「いっそ足摺岬のほうが、よかったんちゃうん」

それはもちろん、一度はしかと考えたのである。

しかし、四国一周をブログとサイコロを頼りにひとり旅した女性芸人は、足摺岬から土佐清水の辺りで、かなりの辛い足止めをくらっていたのである。

わたしは彼女ではない。

しかしどうせなら、比較的無事に、残すはゴールの鳴門大橋まで、となった室戸岬のほうを選んだのである。

なんとも痛々しい理由である。

無論、そんな理由を本宮さんに白状したりなどしない。

「よさこいは、派手やし、カッコええもんね。エンターテイメント、まるっきりショーやもん」

カッコえかったです、あたまが、全身がぼうっとしてました。

「けど」

けどなんなん。
「阿波おどり」は、「綺麗」ですよね。ニュースのひとコマでみる程度だったのが、映画ですけど「眉山」てあるやないですか。
あるねえ。
あれ観たとき、映画なのに、阿波おどりのあのシーンに、見惚れてしまいましてん。

「踊りが決まってるからね」

よさこいは、決められたフレーズが入ってれば、あとは自由にアレンジしてええですもんね。だから連ごとに、細切れに、ショート・ショーみたいに楽しめるんですけど。
けど?
阿波おどりは、全部がひと続きで繋がってるんですよ。
あれだって連ごとに曲や踊りは区切ってんねんやで?
でも、同じ踊りで、曲で、ずうっとひとつの流れみたいなん感じるんですよ。だから、綺麗なんです。

なるほどねえ、とわたしが云いたかったことがわかってくれたようである。

「神楽坂で、阿波おどりやってたん観たんですよ」

神楽坂でもやってたんや。
行って、終わったら裏道を皆でまた戻ってきて、自分等の次の出番待ってて。
そうそう、あれグルグルやっててんな。

得たり、と本宮さんが笑う。

けど。

「ほんとに、ちゃんと踊れるひとの踊りは綺麗なんやで?」

本宮さんは?

「あたしは踊れはせえへんけど、提灯、旗ならなんぼでも振りまっせ」

ニヤリと笑う。

「何を振るんですか?」

本宮さんと同じくCGの精鋭がひとり、円部がニヤニヤしながらやってくる。

お疲れ様っす、と去り際の本宮さんと交わすと、わたしに訊ねる。

ええと。

「白旗、かな」

休み明け二日目で、もうですかっ、兄さんっ。
俺の全ては、すっかり土佐の海にさらわれていったよ。デジカメも壊れてもうたし。

「マジっすか」

おうよ。本ちゃんの京都に移動する前日にやで? どんだけ間ぁ悪いねん。

あっはは、と円部は笑い飛ばす。
飛ばしてくれただけ、壊れた甲斐があったというものである。

兄さんは、本当にネタが尽きないっすねぇ。
ネタなわけあるかいっ。ぜんぶ本当のことじゃっ。

まあまあ、と慰められる。

わたしはウソは云わない。
冗談ならば、云う。
それと、
塩ひとつまみ程度の味付けを。

しかしその塩さえも、ウソのものは使わないのである。

ほんとうのうそ話は、小説だけである。


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