「隙 間」

2010年08月05日(木) ザ・タンゴ・大森ーン

束の間、大森である。

田丸さんが前回の記録簿をめくり、

「今度、旅行にいかれるんですか?」

ええまあ、来週からちょいと高知と京都に。

旅先で、やっぱり書いたりするんですか、と、くりくりした目で真っすぐにわたしを見る。

まあその、それしかやることが、ないから。

ゴニョゴニョと途端に歯切れ悪い返答になってしまったのである。
わたしはいったい何をモジモジと照れているんだ、気色悪い、と可笑しくなる。

真っすぐな、くりくりした目で見られると、わたしは弱いのである。

すうっと吸い込まれるように見つめ返してしまうか。
その場合、だいたい気づくと、吸い込まれるにつれて距離も近づいていってしまうので、たいへんアヤシイ、キケンなことになりかねないのである。

そうならぬよう、まるでくりくりに転がされるように、わたしの目もあちらこちらを忙しく転がり回すのである。

しかしそれは残念ながら、キョトキョトオドオド、というのが相応しい、これまたアヤシイ、フシンな動きになってしまうことが多いのである。

お土産に、冷凍カツオ丸ごと一本、送りましょっか。

いやいやいや、いいですって、気を遣わないでください、と、ここまでは想像通りに、田丸さんが笑う。

「でも」

イ氏は喜ぶかも。
喜びますか。
ひょっとしたら。

予想外の田丸さんの悪のりに、愉快な気持ちになる。

「写真たくさん、撮ってきてくださいね?」

カメラ、持ってくんですよね。

言われて思い出したのである。
そうか、旅にはカメラを持って行くものなのである。

「カメラかあ」

じゃあ、脈、はかりますね。
いわれて思わず、机に両手を伸ばして出す。

あわわ、と片手を急いで引っ込めたが、いかん、この動揺で不整脈あり、副作用の兆候か、と勘違いされてしまうではないか。

「なに、坂本竜馬に会いにいくんじゃあないだろうね?」

イ氏が、サクリと釘を刺したのである。

あやや、不整脈が。

もちろん、せっかく土佐にゆくのだから会わない手はない。

十七、八年ぶりの再訪である。
今は名古屋の友、名友と行った以来である。

土佐の本命は、やはりいかんせん、なにはさておき、いかんともし難く「よさこい祭り」なのである。

今月末に原宿表参道で毎年恒例の「スーパーよさこい」があれども、本場をしかと体感してみたかったのである。

ナルコが鳴子を、の洒落ではないのである。

「お祭りって、それだけでおわりじゃないでしょ?」

打ち上げ花火と共に、夜空に散る。

ももももちろん。

室戸岬である。
若かりし頃の大師が智慧を得た地でもある。

それにあやかろう、との安直で甲斐性なしな目論みが、第二の目的でもある。

そして、飛鳥の姿の健気な女性芸人の旅の足跡を、ほんのわずかながら辿ってみよう、とのよこしまな、不埒な、お馬鹿な発想が、第三である。

彼女はいま、鹿児島目指してサイコロと共に旅を続けているところである。

来年は桜島か、指宿か。

「で、京都はどこで竜馬と会うの」

イ氏が続ける。
いやまあ、別にそれはまったく本命ではないのだけれど、と言い淀んでいると、いつの間にか西郷さんの島流し話にすり変わっていたのである。

わたしは毎夜、上野の西郷さんに見下ろされながら帰路についているのである。

ないがしろにはできないのである。

「おっと、今日はここまで」

まるで紙芝居の尻切れ加減である。

「なんだ、まだずいぶん余ってるじゃない」

残薬をみて、今日は要らないね、というイ氏に慌てて食らい付く。

いや、旅にゆくのですから、その間しっかり飲んでなくちゃあならんのですから。

そっかそっか、と間際のところで思い直してもらえたのである。

いったい何のためにわたしが来たのか、忘れてもらっては困る。
ただ雑談しにきただけではない。
いや、もはや今では雑談のついでに、となってしまっているのは否めないのである。

「車とか、気をつけるんだよ」

止むを得ない室戸の辺りは車を借りるが、それ以外は自分ひとりのときを除いてハンドルを握るようなことはしないつもりである。

どうかご安心を。

そんなわたしを案内し付き合っていただける御人がおられ、たいへん有難く、そのご厚意に今から深く感謝している次第である。

出立まであと数日。

もろもろの準備を万端整えてゆかねばならないのである。


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