「隙 間」

2010年07月03日(土) 「CAN I FLY?」まだ飛べるだろう

「もしもし」

取りきれず、今しがた切れたばかりの電話にかけ直す。

名古屋の友からだった。

「今日、いくよね」

もちろん。
そのために、昼前から仮眠をとっておいたのだ。

仮眠というには少々長く正味四時間ほどになってしまい、予定が随分くるってしまったが。

そう。

一昨日――。

映画サービスデーということは、今月は近い週末に大事な何かがあったはず。

――と思い出した、その大事な何か。

「CAN I FLY?
 ――あたしはまだ飛べるだろうか。」
篠原美也子in渋谷duo

以前、開演時間を開場時間と間違えて、ステージがはじまる十分前にのほほんと会場にいってみて大慌てしたことがある。

そのときの同行者であり、犠牲者でもあった名古屋の友。

チケットに刻印された時間を、あらためて、しかと確かめる。

「もう、時間は間違えないから大丈夫」

電話の向こうで、あっはっはっ、と友が笑う。

今回は(も)ひとりで参戦であるから、誰に迷惑をかけるでもない。
しかし、間違えたくはない。
場所と時間をもう一度確かめ、乗り換え案内もしておく。

よし。

そうして、無事にたどり着いた渋谷duo。



なぜだろう。
胸がドキドキする。



宮崎アニメの永遠のヒロインの台詞そのままの、得体のしれない緊張感。

アルバムとエッセイを、まずは確保。

これはそれぞれによって異なるが、本を出す、ということがどれだけのことか、その一片をわたしは知っている。

最悪、たった一ページで一万円かかることだってある。
もちろんそれは、出版社を間に挟んだ場合であり、しかもそうなると部数も最低五百冊単位となって、結果、数百万を自己負担しなければならなくなることもある。

それはもちろん、五六年前のわたしが目の当たりにした一例であって、すべてではない。

しかしそのせいか、買わなければならない気持ちにさせられてしまう。

篠原さんならば、放っておいても、彼女を姉御と慕う我々によって完売となるだろうが。



つまり、どのみちわたしは彼女の本を買う、ということに変わりはないことに、いま、気がついた。



さて。

アンコール後のアンコール。

もはや恒例。

それが終わり、本当の、今回の彼女のツアーが、フィナーレを迎えた。

やはり、思いを、言葉を伝えるひとの姿は、カッコイい。



わたしはまだ飛べるだろうか。



いまだに飛べず、地べたでバタバタしたままのわたしは、やはりまだ、届かぬ空を見上げて、地平線のかなたまででも、助走を続けてゆきたい。



その熱を内に蓄え、そして火照った体を冷ますために、ひと歩きすることにした。

道玄坂を下り、渋谷駅を通り抜けて宮益坂を上ってゆく。

青学、こどもの城、国連大学を通り過ぎれば、じきに表参道にたどり着く。

ここに、名前こそ出やしないが、たしかにわたしが関わっている建物が、建つ。

キレるな。
諦めるな。
放り出すな。

仮囲いに既に囲まれている現地を、前にする。

いずれ散りゆく花ならば。
今日を一期と思いさだめ。

一瞬で散るために、瞬間的に爆発させる道よりも。
散らすことなく、まずは咲かせる道をゆく。

わかっていたはずだ。
簡単じゃないことくらい。

逆らって、戸惑って、つまづいて、立ち上がって。
敗れ去って。
また立ち上がって。

まだまともに戦ってもいない。
だから、敗れ去ってもいない。

せめて戦いの場に立てるくらいの力を。

トンネルの向こうに何があるのかわからない。
わからないまま、ゆくしかない。

おかえり、といってもらえる場所なのか。
光り差す場所なのか、より深く濃い暗闇なのか。

ときおり差すトンネルの灯りが、ひとつまたひとつと通り過ぎてゆく。

少なくとも今このトンネルは、我が家へと続いている。


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