「隙 間」

2010年05月24日(月) 「私の男」

桜庭一樹著「私の男」

直木賞作品である。
この作品を読んでいると、猫や犬にペロペロと舐められているような感じになる。

熱く、冷たく、ザラリとしていて、そのくせ。

愛情を伝えんと健気なまでに。

無邪気で、真摯で。

井上荒野のような、ゆるやかな「秘密」が横たわる世界よりも静かで、激しい「秘密」の世界であり、金原ひとみのような、究極に振り切れた非道徳的な「本能」の世界よりも穏やかで、揺るぎない「本能」の世界。

小川洋子のような鋭く「閉ざされた」世界よりも濃く、緊密に「閉ざされた」世界であり、「余白」に満たされた世界。

かもしれない。

物語を簡単に説明すると。

十六歳しか違わない養父と養女の、しかし実は実の父と実の娘の、互いの孤独と存在を繋ぎとめてある「愛」のかたちの物語である。

「余白」こそが曲者で、たちが悪い。

「余白」に引き込まれ、囚われ、終わりまで「余白」に包み込まれたままにされてしまうのである。

それが、現在から過去へと物語が語られてゆくなかで、である。

放置されるのではない。
むしろ、主人公たちのように、ピタリと肌を寄せ合うように、している。

余白を余白で埋め合うのが夫婦であるかのように。
余白なのだから、そこに、何か分かり易いものがあるわけではない。

余白できちんと埋められているのに、それでも気付かず、何かで埋めようとする。

埋まらないものを埋めようとする妄執のような熱い感情。

しかしそれは、決して表面に表れず、熱は内にこもり、うねる。

あくまでも、表面は冷ややかに。

直木賞受賞作として、なかなか、納得させられる作品である。


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