「隙 間」

2010年04月25日(日) 「シリアの花嫁」

「シリアの花嫁」

をギンレイにて。
ゴラン高原に暮らすモナは、結婚することになった。
相手の元に嫁ぐには、「境界線」を越えなければならない。

ここはシリアである。
いやイスラエルである。

その境界線。

「境界線を越えた者は、二度と戻れない」

家族とも二度と会えないのである。
相手は親戚とはいえ、一度も会ったことがない。

国には戻れず。
家族にも会えず。
たったひとり。

そこに嫁ぐのである。

どれだけ不安か。

結婚式の日。
「境界線」での最後の出国手続きで、足止めをくらってしまう。

フェンスの彼方には、花婿ら一同が待っている。
しかし、いつまでたっても、許可がおりないのである。

パスポートに、シリアの出国印がおしてあった。
それは直前に書式が変わり、イスラエル側には何も伝えられていなかったのである。

「花嫁は、イスラエルのなかを移動するだけだ。シリアの出国印がある限り、認められない」

と突き返されてしまうのである。

国も家族も捨てる覚悟を決めてきたというのに、なんということだろう。

「ダメなものはダメだ。結婚式は延期してやり直せ」

そんなばかな。

双方、正式な手続きであるから、解決などできやしない。

関係所管はどこも連絡がとれない。

フェンスの前で、じっと待たされ続ける花嫁。

いっそこの機に、結婚などやめてしまって家に帰ってしまったら。

そう、思うだろう。

しかし彼女は、出国してしまっているのである。
もはや、帰ることはできない。
しかし、ゆくこともできないのである。

何度も、彼女の結婚式を無事行えるよう、国連の事務係が往復を繰り返す。

それでも、ついにどうしようもなくなってしまう。

皆が紛糾し目を反らしているうちに、彼女はフェンスが開いた隙をついて、ゆっくりと花婿らが待っているイスラエル側へと、歩いてゆく。

誰も止められない。

向こうに着いたとき、どうなるのかもわからないのである。

不法入国。

目の前で。

それでも彼女は、嫁ぐことを決めたのである。

彼女が最後に、見送るフェンスの向こうの家族に振り返る。

穏やかなその顔を見たそのとき。

なぜか胸が熱くなった。

結婚とはつまり、そういうことなのである。

文化歴史宗教政治の違いがあれども、男はそれを忘れてはならないのである。

中東のあたりはまだまだ男性社会であるから、さらに顕著である。

そして男たちは愚かなほど、見栄や体面や誇りにこだわる。

そこもまた、少なからず万国共通であったりするのである。

それはまた、わたしも例外ではないのかもしれないのである。

この最後に襲われる胸の熱さを確かめたいならば、本作を手にしてみていただきたい。


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