| 2010年04月19日(月) |
「かたみ歌」求めよ、与えん |
朱川湊人著「かたみ歌」
東京の下町、アカシア商店街に暮らす人びとにおこる、不思議な、しんみりと胸に染み入る七つの物語。
直木賞作家である。 本作の舞台であるアカシア商店街は、どうやら我が町谷中か、都電があるのでやや北寄りの駒込界隈をモデルにしているらしい。
終始ノスタルジー漂う、時代も昭和の古きよき頃が選ばれた、連作短編集である。
読みやすい。
帯にあるように、ポロポロと感動、とはゆかなかったが、悪くはない。
しかし良いかといえば、個人的にはさほどではない、と答えてしまうのである。
帯に短し、たすきに長し。
なのである。
染みる、というのにも、種類がある。
春雨が、しとしとと石のおもてを濡らし、白から黒みに変えてゆく染みかたと。
地中から、ジワリとズボンの尻を湿らせるような染みかたと。
上から下に染みるのは、当たり前である。 ほっといても、高きから低きへと重力によって水は誘われるのである。
しかし、下から上へと染み出すのは、違うのである。 重力に抗い、逆らい、理に反して、であるから予測外に、染み入らされる。
それこそが、求めるものなのである。
求めるだけは、誰でもできるのである。
求めよ。 さらば与えん。
とひとからもらうのはなんともムシのよい話で、いただけるというなら、拒む理由がないかぎりいただくのもやぶさかではないが、与える側になる力が、欲しいものである。
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