阿部公房著「砂の女」
なかなか、秀作である。 阿部公房は「箱男」に次いでの二作品目であるが、じつは本作こそが、わたしにとって阿部公房作品で最もはじめに惹きつけられた作品だったのである。
僻地の砂丘地帯にひっそりとある砂だらけの集落に、男が迷い込む。 男は教師で、趣味の昆虫採集のために、休暇を利用してこの地を訪れたのであった。
しかし男が気づくと、すり鉢の底のような砂の底に隔離されたボロ屋に、村の女とふたりで閉じ込められていたのである。
女は毎日砂を掻き出さねばその重みでつぶれてしまう家で、男との暮らしを淡々と、続けてゆこうとする。
男は、村ぐるみの犯罪だ、と脱出・逃亡を試みるが、まるで蟻地獄のようにさらさらと、掻けば掻くほどただ崩れてゆくだけ。
男は、砂こそ常に流動し続ける唯一の存在、と特殊な感情を抱いていたが。
皮肉にも、流動し続ける唯一の存在によって、閉じ込められてしまうのである。
男は、砂に、女に、村に囚われ、そして……。
虚脱感とは、倦怠感とは、エロティシズムと表裏一体である。
なすべき単純作業の繰り返しの日々。 報われぬ虚しさ。 諦め。 渇望。 餓え。
そして。
満たされようとしてなるのではなく、ただ満たされてゆくこと。
流動し続ける砂の海は、すでに貴君のすぐ足元で蠢いているものなのかもしれない。
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