「隙 間」

2010年02月26日(金) 笑うおおもり

さて昨夜は大森であった。

いつもなら金曜の夜だが、金曜はイ氏が芝大門にいるとのことで、イ氏と喋り過ごすなら今宵しかない、との次第であったのである。

来訪の旨を告げ、待合室でしばし待つ。
本差しに、「しっかり眠ってダイエット」との活字が踊っていたのである。

睡眠とダイエット、もとい肥満は、緊密な関係を持っているのである。

これは医学的にも、真実である。

食欲と睡眠を司る脳神経(物質)は、同じところもしくは共通しているのである。

もとい。

わたしはソロソロと指を伸ばし、受付の方々に決して何を手にしているのか気取られぬよう、しっかり背中で覆い隠し、ささっと項を繰る。

くれぐれも。

決して、わたしが肥満体であるというわけではない。

やや腹周りが、豊かに感ずるようになってきた、ような気がしているだけである。

「竹さん」

ハッと、振り返る。

ケイちゃんが問診票を胸に抱き、立っていたのである。

いや、別に、太ったわけではなく。
え、なんですか。

キョトンと、まるでなんにも気づいてない様子である。

ささっと本を戻し、わたしは何食わぬ顔を決めこむ。
じゃ、こっちで、とケイちゃんに導かれるままあとについてゆこうとすると、はたと室のイ氏と目が合ったのである。

どうも、と会釈すると、「やあいらっしゃい」と、わたしを室に招き入れようとしたのである。

あのまだ問診が。ケイちゃんが戸惑い拒もうとする。

「いいよいいよ、さあさあ」

よよよ、と招かれるがまま、椅子につく。

そっか前回は獅童さんだったんだよね。どうだった。

んあ、と顔をあげてわたしに訊ねる。

いや、あらましと最近のことをちょちょいとお話しまして、ねえ。
ケイちゃんに振り返ると、はい、とかしこまる。

そうそう。これからはずっと、週末は芝大門だから。
ずっと、ですか。
うん、ずっと。

じゃあ、と、わたしももともとは芝大門で、イ氏についていって大森にきているのだから、会社帰りの通り道にまた戻れるなら都合がよい。

「でもね」

あちらだと、こうして話してる時間が、なくなっちゃうよ。
え。

「なにせ慌ただしいからね」

じゃあ、これまで通りこちらでお世話になります。

室をでたところでケイちゃんが、

「不死鳥さんは、ずっとあちら(芝大門)で、バリバリきりもりされてますよ」

芝大門のころからの不死鳥さんとは、昨年末以来、ずっとご無沙汰である。

とはいえ、やはりこれからも、帰り道とは逆方向だとしても大森に通うことにしよう。

最近ずっと、夜八時あたりがピークでしんどいんですが、といってみると、

「じゃあ、三錠だそうか」

即座にイ氏にいわれたのである。

いや、時間をずらしてやりくるようにしてみるので、まだいいです。

「だけどそれだと」

あなたは書ける時間がなくなっちゃうでしょう、と続ける。
まあたしかに、書くどころじゃあないですが。でも、もうしばらく様子を待ってみます。

短時間の補強はどうやらリタ嬢しかないらしく、それは当然避けたいのである。

「私」の時間に思考がわやくちゃになるなら、仕方がないので諦めるしかない。
しかし。
「公」の時間にそうなるのは、まったくよろしくない。

幸い今のところ、そうなる前に「公」の場から引きあげていられているが、そうはゆかないこともあるのである。

わやくちゃになっているときは、すべてが煩わしくなるのである。

ただひたすら眠くなる。
尋常じゃなく。

であるから、外部からの干渉など、構ってるどころではないのである。

冷たいようだが、そんなとき、触れたくなければ触れて欲しくもない、というのが本音であり、求める最善策なのである。

かつて、わたしのその状況に初めて居合わせることになった父が、戸惑い、手探りの結果にようやく導き出した「大丈夫か」との、たったそれだけの心配の言葉をかけてくれたとき、

「めんどくさいっ。なんでもいいから、ほっといてくれっ」

と語気荒く投げ放ったのである。

正確には、

「(考えて判断するのさえ)めんどくさいっ(くらいしんどいし、思考が回らないから)。なんでもいいから(気にしないで、気にされるのさえ、親切だとわかっていてさえそれが逆に煩わしく思ってしまうから)、(どうかお願いだから)ほっといてくれっ(話しかけたり何かできることをしようとか、そういうのがことごとく裏目に感じてしまうので、そっとしておいてください)」

というつもりだったのである。

がしかし、結果、前述の次第である。

イ氏が、

「結婚相手とか、そろそろ探さないの」

と、さきほど突っつかれたことを振り返る。

一緒に過ごしていて、さすがに毎日ではないが不定期に、こんなことがあるのを受け入れられる御人が、いるだろうか。

「それは相手に、誰であったって慣れてもらうしかないんだから」

はっはっはっ。

そうですよね。

あっはっはっ。

笑うしかないのである。


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