「ねえねえっ」
わかったよ、枝前さんの髪飾り。 聞いたんですか。
コクリと、馬場さんがうなずいたのである。
枝前さんの後ろでクルリと丸めた髪に、キラリと輝いて突き刺さっていた髪飾り。
「かんざし」のようだが、飾りが何もない。 しかも、長い。
えっとね、あれはね。
「箸、だって」
あっはっはっ。
まさかの答えに、いや本当は何でしたか、と問い返す。
だから「箸」だって。
ちょいと待て。それならそれで、なんと洒落た感性なのだろう。
「韓国に行ったときに買ったんだって」
韓国で箸といえば、鉄箸である。
ということは、もう一本は家にある、と。 そういってた。
うむむむ。
腕組み、うなってしまったのである。
「感性が、いいよね」
馬場さんも、枝前さんのそれにすっかり感心してしまっていたのである。
「わたしも、その一本もらって真似しよっかな」
お揃い、ですか。 そう。
「お箸シスターズ」
ですね。 なんで日本語なの、
「チョプスティック・シスターズ」
とかさあ。
馬場さんが呆れ顔でわたしを見返す。
チョコチップみたいじゃないですか、それじゃあ。
馬場さんとしては、ラブ・サイケデリコだとか、サディスティック・ミカバンドだとかのノリのつもりであったのだろう。 そうは問屋が、卸させない。
なんだかなあ、とおとなしくなった馬場さんが、夕方、カツカツカツ、と足音高々しくやってきて、やにわに、ふんっ、と鼻を鳴らしたのである。
「どう?」
指差した頭には、クルリと丸めた髪の玉に、プスリと箸が刺されていたのである。
わたしは、反射的に、ぽつりとつぶやいたのである。
食堂のおばちゃん。
ふんー、いいっ。
わたしをとうにあきらめ、すぐさま大分県に詰め寄る。
「どう、これ」
説明もなくいきなり訊かれた大分県は、まじまじと眺めてから、
食堂のおばちゃん?
あーっ、あんたらふたり、揃いも揃って腹立つっ。ひどくない? なんで彼女と扱いが違うのよ。
そんな、と謂われのない気持ちで大分県が、わたしに同意と説明と助けを求める目でみつめてくる。
だって。 だって、なに。
「塗り箸」なんだもの。
うん、そう。 大分県が激しく同意する。
馬場さんの髪に刺してあるのは、小豆色の塗り箸であった。
まるっきり、あり合わせで食堂の箸を刺してきました、という体に見えてしまったのである。
枝前さんのは、キラリと輝く銀色の鉄箸、である。
せめて「小豆色」じゃないなら、よかったけれど。
ふん、と鼻をならして仕事に戻った馬場さんの背中は、すっかり意気消沈してしまったようであった。
かわいそうな気持ちになってしまったが、この髪飾りの発想は、なかなか素晴らしい。
「かんざし」は和髪でなければなかなか合わせる気がもてないが、これなら、気軽に合わせられる。
ストンと抜け落ちないのか、との心配はご無用。 縫うように刺せば、ピタリとしっかり、とまるらしいのである。
発想の転換。
活かす機会が残念ながらわたしにはないが、なかなか素晴らしい発見を教えてもらったのである。
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