「隙 間」

2010年02月25日(木) ハシにもかけず

「ねえねえっ」

わかったよ、枝前さんの髪飾り。
聞いたんですか。

コクリと、馬場さんがうなずいたのである。

枝前さんの後ろでクルリと丸めた髪に、キラリと輝いて突き刺さっていた髪飾り。

「かんざし」のようだが、飾りが何もない。
しかも、長い。

えっとね、あれはね。

「箸、だって」

あっはっはっ。

まさかの答えに、いや本当は何でしたか、と問い返す。

だから「箸」だって。

ちょいと待て。それならそれで、なんと洒落た感性なのだろう。

「韓国に行ったときに買ったんだって」

韓国で箸といえば、鉄箸である。

ということは、もう一本は家にある、と。
そういってた。

うむむむ。

腕組み、うなってしまったのである。

「感性が、いいよね」

馬場さんも、枝前さんのそれにすっかり感心してしまっていたのである。

「わたしも、その一本もらって真似しよっかな」

お揃い、ですか。
そう。

「お箸シスターズ」

ですね。
なんで日本語なの、

「チョプスティック・シスターズ」

とかさあ。

馬場さんが呆れ顔でわたしを見返す。

チョコチップみたいじゃないですか、それじゃあ。

馬場さんとしては、ラブ・サイケデリコだとか、サディスティック・ミカバンドだとかのノリのつもりであったのだろう。
そうは問屋が、卸させない。

なんだかなあ、とおとなしくなった馬場さんが、夕方、カツカツカツ、と足音高々しくやってきて、やにわに、ふんっ、と鼻を鳴らしたのである。

「どう?」

指差した頭には、クルリと丸めた髪の玉に、プスリと箸が刺されていたのである。

わたしは、反射的に、ぽつりとつぶやいたのである。

食堂のおばちゃん。

ふんー、いいっ。

わたしをとうにあきらめ、すぐさま大分県に詰め寄る。

「どう、これ」

説明もなくいきなり訊かれた大分県は、まじまじと眺めてから、

食堂のおばちゃん?

あーっ、あんたらふたり、揃いも揃って腹立つっ。ひどくない? なんで彼女と扱いが違うのよ。

そんな、と謂われのない気持ちで大分県が、わたしに同意と説明と助けを求める目でみつめてくる。

だって。
だって、なに。

「塗り箸」なんだもの。

うん、そう。
大分県が激しく同意する。

馬場さんの髪に刺してあるのは、小豆色の塗り箸であった。

まるっきり、あり合わせで食堂の箸を刺してきました、という体に見えてしまったのである。

枝前さんのは、キラリと輝く銀色の鉄箸、である。

せめて「小豆色」じゃないなら、よかったけれど。

ふん、と鼻をならして仕事に戻った馬場さんの背中は、すっかり意気消沈してしまったようであった。

かわいそうな気持ちになってしまったが、この髪飾りの発想は、なかなか素晴らしい。

「かんざし」は和髪でなければなかなか合わせる気がもてないが、これなら、気軽に合わせられる。

ストンと抜け落ちないのか、との心配はご無用。
縫うように刺せば、ピタリとしっかり、とまるらしいのである。

発想の転換。

活かす機会が残念ながらわたしにはないが、なかなか素晴らしい発見を教えてもらったのである。


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