「隙 間」

2010年02月24日(水) はしかかんざしか

わたしの目に、キラリ、と輝くものが、映ったのである。

枝前さんの、後ろにくるりとだんごにした髪のところに、それは突き刺さっていたのである。

白銀に光を反射させているそれは、かんざし、にしては装飾がなく、長い。

最近の髪飾りだろうか、かんざしですか、ともし枝前さんに訊ねてみて、

「何時代のひとですか」

と、くすくす笑われてしまうのは避けたい。

かといって素直に、その髪飾りは何というのですか、と訊ねるのも、気があると誤解を招かないでもないので避けたい。

そこで、隣席の馬場さんにまずは訊ねてみたのである。

「なんだろうね」

しばしの黙考ののち、やや重たげに口を開いたのである。

わたし、あまり小物とか、買わないから。

二歳になるお子さんがいれば、自分の小物どころじゃあないですよね、と感慨深くあいづちを打とうとすると、やおら馬場さんがわたしに向き直り、まっすぐに、こぼしてきたのである。

だんながね、考えもせずに、気分でそういうのを買ってきちゃうの。

素敵なだんなさまじゃないですか。

「ちがうの」

苦しい家計なのに、勝手に、だよ。しかも、小物じゃなくて、服とか、何万円のやつ。

なおさら素敵じゃあないですか。まあその、家計を預かる立場としては、文句がいいたくなるのはわかるけれど。

「でしょっ?」

苦しい家計だってわかってるはずなのに、もうっ。

「でも」

女としては嬉しい気持ちが、あるでしょう。

「それはそうだけど」

でも、ちがうの。
馬場さんはまけじと、キリリとわたしを見据えたのである。

「サイズが、今のわたしじゃ着れないのを、だよ?」

わたしに痩せろって。
まあまあ。
あてつけ、だったり。

笑顔で憤懣をはきだす馬場さんに、素敵なだんなさまを同じ男として弁護の言葉を返す。

たとえば、ですよ。

結婚前、付き合った初めての贈り物で、指輪を贈ったとしましょう。
うん、それで。
サイズが「七号」だと、そのときに知ったとします。
うんうん、で。
結婚指輪も、銀婚式の記念の指輪も、「七号」だと当然思うのが、きっと男なんです。
えー。
家事や子育てやらでたくましくなったりする、ということはなかなか頭に浮かばないんです。
そんなら、ちゃんと買う前にサイズを確認してよ。

チッチッチ。

人差し指を小気味よく、振ってみせる。

「それじゃあ、サプライズにならないじゃないですか」

ぐむう。

そんな素敵なだんなさまの、つまりはおのろけ、が聞きたいのではない。

枝前さんの髪にキラリと光るあれは、何というのか。

「じゃああとで聞いといてあげるよ」

やっと本題にたどり着けたのである。

しかし答えは、明日に持ち越されたのである。

はたして、「かんざし」か、よもやの「箸」か。


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