わたしの目に、キラリ、と輝くものが、映ったのである。
枝前さんの、後ろにくるりとだんごにした髪のところに、それは突き刺さっていたのである。
白銀に光を反射させているそれは、かんざし、にしては装飾がなく、長い。
最近の髪飾りだろうか、かんざしですか、ともし枝前さんに訊ねてみて、
「何時代のひとですか」
と、くすくす笑われてしまうのは避けたい。
かといって素直に、その髪飾りは何というのですか、と訊ねるのも、気があると誤解を招かないでもないので避けたい。
そこで、隣席の馬場さんにまずは訊ねてみたのである。
「なんだろうね」
しばしの黙考ののち、やや重たげに口を開いたのである。
わたし、あまり小物とか、買わないから。
二歳になるお子さんがいれば、自分の小物どころじゃあないですよね、と感慨深くあいづちを打とうとすると、やおら馬場さんがわたしに向き直り、まっすぐに、こぼしてきたのである。
だんながね、考えもせずに、気分でそういうのを買ってきちゃうの。
素敵なだんなさまじゃないですか。
「ちがうの」
苦しい家計なのに、勝手に、だよ。しかも、小物じゃなくて、服とか、何万円のやつ。
なおさら素敵じゃあないですか。まあその、家計を預かる立場としては、文句がいいたくなるのはわかるけれど。
「でしょっ?」
苦しい家計だってわかってるはずなのに、もうっ。
「でも」
女としては嬉しい気持ちが、あるでしょう。
「それはそうだけど」
でも、ちがうの。 馬場さんはまけじと、キリリとわたしを見据えたのである。
「サイズが、今のわたしじゃ着れないのを、だよ?」
わたしに痩せろって。 まあまあ。 あてつけ、だったり。
笑顔で憤懣をはきだす馬場さんに、素敵なだんなさまを同じ男として弁護の言葉を返す。
たとえば、ですよ。
結婚前、付き合った初めての贈り物で、指輪を贈ったとしましょう。 うん、それで。 サイズが「七号」だと、そのときに知ったとします。 うんうん、で。 結婚指輪も、銀婚式の記念の指輪も、「七号」だと当然思うのが、きっと男なんです。 えー。 家事や子育てやらでたくましくなったりする、ということはなかなか頭に浮かばないんです。 そんなら、ちゃんと買う前にサイズを確認してよ。
チッチッチ。
人差し指を小気味よく、振ってみせる。
「それじゃあ、サプライズにならないじゃないですか」
ぐむう。
そんな素敵なだんなさまの、つまりはおのろけ、が聞きたいのではない。
枝前さんの髪にキラリと光るあれは、何というのか。
「じゃああとで聞いといてあげるよ」
やっと本題にたどり着けたのである。
しかし答えは、明日に持ち越されたのである。
はたして、「かんざし」か、よもやの「箸」か。
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