「隙 間」

2010年02月15日(月) 見直し直した

今朝席に着いたら、机上に、ハート型の、チョコをあしらったクッキーが、一枚、置いてあったのである。
それは明らかに手作りであり、ひと口サイズのものが一枚、透明ビニルで包装されていた。

はっと、大分県を見ると、あったでしょう、とわたしに同意を求める目でみる。

しかし決して声には出さず、口を形するだけである。

大分県の向こうで、リョウくんは無関心な顔をして机に向かっている。

謎。
なんですよ。

と、大分県が、これまた目だけでわたしに訴える。

誰が誰とも書き添えもなく、ただ、ちょこんと、それぞれの机上に、置かれていたのである。

火田さんからか、と思い、チョコクッキーを掲げ、ありがとうございます、と火田さんに向かって言おうとつまみ上げたとき、わたしは、つと、それを取りやめた。

ビニルの包装のすみっこに、気がついたからである。

「○ば(まる囲みに、ば)」

大分県は気づかずに、今もまだ不審な様子で、ちらちらとしている。

わたしは、あっは、と腹の中で笑い、大分県にはそ知らぬふりを通した。

やがて遅れて出てきた馬場さんに、

「あねさん。ありがとうございます」

と、謝意を伝える。
いえいえどういたしまして、とこともなげに、席に座る。

馬場さんは土曜出勤する、ときいていたが、日曜にも来ていたのだろう。
その帰り際に、皆の机にそっと置いていったのであろう。

「念入り、だからね」

クスリと、笑う。

怨念ですか。
まあね。

馬場さんは、土日出勤で、金曜も夜遅くまで残業していたのである。
そんななかでも、このような心配りを忘れないとは、これは、すっかり見直さねばならない。

うちの男社員どもは、揃いも揃って、独身ばかりで。

激励は、しかと受け取った。

その後、互いのスケジュールを報告確認する社内会議があり、当然、馬場さんの厳しい状況が本人の口から告げられる。

「これから書かなきゃならない図面枚数なんですけど」

馬場さんの上についてる火田さんが、フォローを入れる。

「九百枚、て」

「きゅ、きゅうひゃくですかっ」

そんな馬鹿な、と思わず声を上げて聞き返してしまったのである。

「わかんない。まだ、リストを渡されただけだから」

火田さんが、続ける。

もちろん、これから中身を見て整理してみなければわからないんだけど。一分の一の図面とかがあるのよね、なんなのかしら。

と、ため息をこぼした。
そんな火田さんに、

それは機械図で建築の図面じゃあないですよ。

とは言えるわけがなく、そこは、ぐっと飲み込んだのである。

が。

わたしが知るなかで、せいぜいが二百枚で、その中にはメーカーによる製品図(仕様)を含めて、であるが、それでも尋常ではない。

これは、大変だ。いや、大変どころじゃあ、ない。

それを火田さんと馬場さんの、おもにふたりで。
「なので」

そこで馬場さんが口を開いたのである。

皆さん、お手伝い、よろしくお願いします。

はあ、まあ、それは、やぶさかではないけれど、と戸惑いつつ、皆はいまいち消極的な態度に変わる。

「あれれ。みんなにあげたよね、タダだと思ったかしらん」
「えっ。あれにはそんな意味があったんですかっ」

今まで沈黙していたリョウくんが、ガバッと身を起こす。

大分県は、それがあろうがなかろうが、きっと変わらないのであろう。
あーあ、と苦笑いを浮かべていた。

わたしは、まったく別、である。

社内でひとり、どっぷりと別物件に、出向扱いで年内いっぱい関わっているため、社内の物件に関わることができないのである。

定時以降、土日休日出勤で関わることならできるが、それはないだろう。

であるから、わたしは、何のてらいもなく、馬場さんの念入りチョコクッキーをかじることができるのである。

無論、手伝う気が毛頭ないわけではない。
そこは、そのときその場で、うまくやりくる必要があるだろう。

アフター・ばれんたいん・でい。

見直した馬場さんを、さらに見直し直した日であった。


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